生まれつきの気質と変わる性格 クロニンジャー理論 第2回目
目次
前回のおさらい クロニンジャーの7つの因子
クロニンジャーの4つの気質
クロニンジャーの3つの性格
自分の性格とうまくつきあうには 自尊心と協調を高める
気質(4つの因子) 新奇追求、損害回避、報酬依存、固執
生まれもった影響が多いとされ、幼い頃からみられる性質です。クロニンジャーのモデルでは、神経伝達物質の分泌と代謝に関連していると考えられています。この気質によって、私たちは一人一人、世界の感じ方が異なるようです。
性格(3つの因子) 自尊心、協調性、自己超越性
日々の生活の中で、自分についての理解を深めながら作り上げていくもので、成人になる頃に形が出来上がってきます。私たちは気質によって世界を感じ取り、そして感じ取ったものを、この性格を通して意味づけていきます。
クロニンジャーの気質と性格の7因子モデルは、気質を4種類に、性格を3種類に分けた計7種類の数値でパーソナリティを把握しようとするものです。
気質と性格の相互作用に注目し、生まれ持った「変えられないもの」と、育ちの中で作られてきた「変えられるもの」をはっきりと示している事」が、他のパーソナリティ理論と比較して、画期的と言えます。
それでは、クロニンジャーが考える「気質」と「性格」についてみていきましょう。
クロニンジャーモデルの4つの気質
①新奇性追求 冒険好き 心のアクセル
新しいものを追求しようとする性質です。冒険好きで、新しいものや珍しいものを探して行動します。このスコアが低ければ、思慮深く計画的な行動をとる反面、考えや行動が硬直化しやすくなります。高すぎると我慢が苦手で、行き当たりばったりの行動になりやすい傾向があります。でも自尊心が低いとただ好奇心に駆り立てられて、衝動的にいろんなことを手をつけては長続きせず、そんな自分がイヤでたまらないということになってしまいます。
②損害回避 心配性 心のブレーキ
損害を避けようとする性質です。心配性や怖がりを意味します。「心配だから…」と行動を止めてしまいます。緊張しやすく、将来のことをあれやこれやと悩みやすい傾向があります。反対に、スコアが低い人は、大胆な行動が取れる反面、楽天的になりすぎて失敗してしまうこともあります。
③報酬依存 人情家
人から認められたい=報酬を求める気持ち(承認欲求)が強いです。情が厚く、人にほめられることがうれしくて何でもやってしまう。スコアの低い人は冷静で客観的な行動が取れる反面、他人に対して冷たいと見られてしまうことがあります。高すぎると、相手の悩みを自分の事のように悩み、依存的になったりする傾向があります。
④固執 粘り強さ
一生懸命に辛抱強く続ける性質です。努力家で頑張る事が出来る。粘り強さのスコアが低い人は物事にこだわらず、サバサバしている反面、あきらめが早すぎる傾向があります。高いと1つのことにこだわりすぎる傾向があります。
この4つがどのようなバランスで組み合わされているかが、その人の生まれつきの個性(気質)と言うことになります。
クロニンジャーモデルの3つの性格
①自己志向 自尊心
いわゆる健康な自尊心です。クロニンジャーの用語では自己志向と呼ばれています。自分という存在、自分の感じ方、考え方に対する信頼感です。自分を信じて、自らの目標と価値観に従って行動していこうとする傾向を示します。そして遺伝的に決められた気質の骨組みを長所にするか、短所にするかに影響する一番のポイントになるものです。
自尊心は。日本ではプライドと誤解されることもありますが、いわゆるプライドの高い人や人を見下す人は、自尊心が低いものです。自分に自信がないから相手に偉そうな態度を取ったり、自分がどういう扱いを受けるかに過敏になり、結局自分もつらい思いをします。本当に自尊心が高い人は、生まれつきハンディキャップがあっても、自分なりに環境に適応していくやり方を身に付けています。自分のやり方に自信があり自己評価も高いので、大きく心のバランスを崩したり、人に依存したり、批判するようなことをしないで済みます。冒険好きスコアの高い人が自尊心スコアが高ければ、自分の好奇心や衝動を前向きに利用して、どんどん新しい活動に手をつけていくことができるでしょう。ビジネスでも成功するかもしれません。でも、自尊心が低いとただ好奇心に駆り立てられて、衝動的にいろんなことを手をつけては長続きせず、そんな自分がイヤでたまらないということになってしまいます。
②協調
協調のスコアの高い人は他の人の気持ちに敏感で他者を思いやりながら行動していきます。自尊心同様、もう一つの重要なポイントです。低い人は、他人の気持ちに配慮した行動をとるのが苦手です。自尊心は高いけれども協調性は低いと言う人の場合は、自分の道を歩んでいるけれども、集団の中では浮いてしまったり、トラブルが多かったりというタイプになるようです。反対に協調性は高いけれども、自尊心は低いと言う人の場合は周りに流されてしまうようなことになります。しかし、一見、生まれつきと思われがちですが、実は自分の力で変えていけるものなのです。
③自己超越
現実生活を超えた自然や宇宙への関心のようなものを意味しています。すべての物は全体の一部であるという感覚は、自他の区別のない深い受容や、大きなものへの帰属を体験します。特に35歳以上の成人において、人生の満足度や適応状態を図るうえで重要なスコアです。
自尊心や協調を高める重要なポイントは、自分をよく知ることです。
ここでクロニンジャー理論をまとめながら心の健康を保つために何をすればいいか考えてみると、自尊心を高く育てることが間違いなく心の健康を守ることにつながるようです。冒険好きスコアの高い人は、どんなにそれを変えようと努力しても、気質としては冒険好きなのです。ところが「冒険好きは良くない」といったことを周りから言われ続けると、自分を否定することになり、結果として自尊心を低めることになってしまいます。自分の努力では「変えることのできない」4つの因子を認識し、それをプラスに活かしていくことが、自尊心を高めることにつながるのですから、自分を知るということが非常に大事ということになります。
まとめ
今回は、パーソナリティ(その人らしさ)を気質と性格の2つから見ていくクロニンジャーの理論をご紹介しました。
生まれ持った気質を、①冒険好き②心配性③人情家④粘り強さに分け、この組み合わせから特性を見ていきます。
また、育ちの中で作られた性格を、①自己志向、自尊心(自分に対する信頼感)②協調(他者を思いやる)③自己超越(自分を超えたものとのつながり)に分け、こちらも組み合わせから、その人らしさが成り立ちます。
私たちは、もし自分の性格や特性について悩んだ時、それが、「生まれ持ったもののか」、「育ちの中で作られたもの」なのかを一度立ち止まって見分ける必要があるのかもしれません。クロニンジャーの理論によると、変えられるのは、自己志向(自尊心、自分に対する信頼感)・協調(他者を思いやる傾向)・自分を超えたものとのつながりの3つなのです。
次回に説明しますが、自尊心や協調を強めていくには、まず、自分をよく知ることでしょう。
そして、もし余裕ができたら、自己効力感を高める治療が良いと思います。認知行動療法なら3つのC、アサーションや対人関係的療法的に人とつながるがるスキルの向上、強いネガティブな感情に振る舞わされないで、こうなりたいという自分の価値観を軸に周りを見ていく練習やマインドフルネスを習得することが、お役に立つと考えています。
北村メンタルヘルス研究所にて、スコアを測るテストが公開されています。興味のある方はご参照ください。https://www.institute-of-mental-health.jp/thesis/pdf/thesis-06/thesis-06-04.pdf
アサーション 自分も相手も大切にするコミュニケーション法
マインドフルネス
加藤正 監修
医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長/名古屋市立大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医
所属学会 / 日本精神神経学会、日本うつ病学会、日本嗜癖行動学会理事、厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザーなどを務める。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで下田光造賞を受賞。
関連する情報
監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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