“お守り薬”はいつまで必要⁉ 社交不安障害を例に
【目次】
“お守り薬”とは?
“お守り薬”の注意点!
“お守り薬”を減らすために
今回のまとめ
はじめに
“薬に頼り切らない治療”についてお話をするときに、患者様から、
「お守り代わりにお薬を常に持っているのですが、良くないと聞きました」
「頓服(とんぷく)を止めたいのですが、やめると症状が出るのではないかと不安です」
といった声をよくお聞きします。
そこで、今回は“お守り薬”について、社交不安障害を例に挙げ、解説していきます。
“お守り薬”とは?
“お守り薬”とは、“頓服(とんぷく)”のことを指しています。
頓服とは症状が出たとき/出そうな状況の直前に飲む薬です。
例えば、
「緊張・不安を和らげる目的で、プレゼン前やプレゼン当日の朝に服薬する。」
「出張でどうしても飛行機に乗らなければならないので、フライト直前に服薬する。」
といった使い方をします。
苦手な状況にどうしても行かなければいけないときなどに、一時しのぎとして処方されるものです。
“お守り薬”の注意点!
“お守り薬”のメリット
頓服には、いろいろな役割があります。
①症状を和らげて、何とか苦手な場所に行けるようにする。
②「いざとなれば薬がある」という安心感。
③苦手な場所や状況に対する不安やつらい気持ちを和らげる。
などです。
“お守り薬”の使い方の例
社交不安障害の例で考えてみましょう。
学生時代にはプレゼンの機会が全くなかった方が、就職を機に1週間に2回程度、会議や打ち合わせをするようになりました。
この会議では、同期はもちろんのこと、先輩や上長も出席し、大人数の前でプレゼンをしなければいけません。
しかし、プレゼンを前日、内容を何度もシミュレーションするのですが、心が落ち着かず、「失敗したらどうしよう」という心配が頭から離れずに、ほとんど睡眠がとれません。
当日の朝、出社しようとすると、腹痛や吐き気がし、何とか出社しましたが、プレゼン中は頭が真っ白で、脚が震えて、気が遠くなって倒れそうな感覚に陥りました。
それでも、何とかプレゼンはシミュレーション通りに終えることはできましたが、「また、倒れそうになったらどうしよう」と不安が募り、翌週の会議を欠席してしまいました。
会議のたびに仕事を休んでもいられないため、頓服薬を飲んで、過度な緊張や不安をやわらげ、会議やプレゼンを乗り切ることになりました。
「いざとなればお薬を持っているから大丈夫」という安心感から、緊張しながらも、なんとか出勤し会議に出続けることができました。
お守り薬のデメリット
しかし、このようなお薬の使い方には注意が必要です。なぜなら、
「お薬が無くなったら…」という不安
という、新たな不安が学習されてしまうことがあるからです。
“お守り薬”を持って、問題なく生活を送れている方もいらっしゃいますが、「お薬があれば行けるのだけれども…」と、薬に頼っている現状にどこか不全感を持っていらっしゃる方も見えます。
“お守り薬”を手放すことはできるのか!?
お薬に頼り切らない治療
あらたまこころのクリニックを受診される患者様の中には、「薬以外の治療はできないか?」「お薬なしでも生活できるようになりたい」と希望される方がいらっしゃいます。
そのような場合、当院では心理療法を通して自分で対処する方法を身に付けていただき、お薬に頼り切らない治療をサポートさせていただくことがあります。
どんなことをするのか
社交不安障害の例で説明します。
①まずは社交不安障害が維持するメカニズムを整理していきます。具体的には、苦手な状況でどのようなことを考え、行動しているかを自身で整理していきます。
②その後、その考えの幅を広げる訓練や自己注目に対する訓練などを繰り返します。
③身に着けたスキルを実生活で実践して、苦手な場面を乗り越えていきます。
④成功体験を繰り返し、自信が出てきて不安が小さくなってきたら、徐々に減薬していきます。
“薬に頼り切らない治療”をご希望の方は、まずは医師にご相談ください。お一人お一人の状況を医師が医学的見地に基づき判断したうえで、医師が必要と判断した場合には、薬物療法と並行して、心理療法に取り組んでいただきます。
(※“薬に頼り切らない治療”とは、“薬を全く服用しない治療”ではありません。また、病気の種類やその方の生活状況などによっては、心理療法が難しい場合もございます。あらかじめご了承ください。)
今回のまとめ
みなさんいかがでしょうか?今回は社交不安障害の例を使いつつ、“お守り薬(頓服)”について解説しました。頓服薬の使用にはメリット・デメリットがあるため、医師と相談し、長期的な治療を見据えた服用の仕方を工夫しましょう。“お守り薬(頓服)”についてお悩みの方は、医療機関へご相談ください。
関連する情報
監修
-
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
最新の投稿
- 社交不安障害専門療法2023年10月27日あがり症・社交不安障害の治療の仕上げ 行動実験
- 心の整理面接2021年6月21日困りごとを整理して、こころの地図を作ろう
- 2021年4月8日生まれつきの気質と変わる性格 クロニンジャー理論 第2回目
- 認知行動療法2021年4月2日性格は生まれつきなの? クロニンジャー理論 第1回目