パニック障害の初期の薬物治療について
【目次】
パニック障害の初期の薬物治療について
パニック障害の薬物療法と認知行動療法の併用
まとめ
はじめに
特に身体の病気がないのに、ある日突然、ドキドキ、動悸や発汗、震え、手足のしびれ、息ができない、呼吸困難などの生理的な症状を伴うパニック発作が出現し、その後「また発作が起きるのではないか?」という不安から、生活への支障を生じてしまうパニック障害になっていきます。パニック障害には2つの顔があります。1つは急性のパニック発作ともう1つは、慢性に気づかないうちに進行する予期不安、広場恐怖、安全保障行動、回避、うつ病、慢性的な体の不調です。ここをうまく治療していかないといけません。
今回は、そのようなパニック障害の治療の薬物療法のポイント、そして薬物療法と認知行動療法との併用について紹介していきます。
パニック障害治療初期の薬物療法
パニック障害の治療初期には、心臓のドキドキ、動悸、発汗、震え、息が苦しい、呼吸困難、のどが詰まる、胸の圧迫感、はきけ、めまい、手足のしびれなどの身体症状と「死んでしまうのではないか」という恐怖を伴うパニック発作が頻発する状況が続きます。
パニック発作が頻発するというのは、「本当は危険ではない状況に対しても、脳が危険を知らせるアラームを誤作動させてしまっている状況」が続いている状況であると言えます。火災報知器が、本来なら火事が起きたときにアラームがありますが、火事じゃないのに,アラームが鳴ってしまう状態です。過敏になり過ぎた誤作動です。脳の不安に反応する扁桃体という場所が過敏になっているのです。
そのような場合、まずは脳の危険を知らせるアラームの誤作動を抑える必要があります。
その際に用いられるのが薬物療法なのです。
パニック障害の薬物療法は、主にSSRIと呼ばれる薬剤が中心になります。服用後3週間くらいまでが,とても大事な時期で,この時期を上手に乗り切ると後々がスムーズに治療が進みます。というのは、パニック障害の人は,薬を飲み始めた直後に「副作用」が出やすいのです。SSRIなどは飲み始めは人によっては薬がなじんでくる3週間くらいまでは,いくつかの体の症状が出ることがあります。しかしなじんできたら、なくなりますので、本当の副作用ではありません。服薬している間、「副作用」がずっと続くとか、どんどん強くなるといったことがありません。パニック障害は体の変化に敏感なので、「なじむ変化」を副作用と思ってしまい、ただでさえ不安が強く所に持ってきて不安が大きくなり「副作用で大変なことになる」と考えてしまうのかもしれません。これこそがパニック障害の本質なので、SSRIなどの薬を服用して頂きたいと思います。
一方で、こういった最初のなじむまでの不安が起きない、しかも飲めばたちどころに楽になるという薬があります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬と呼ばれる,いわゆる精神安定剤です。20年前は、よく使われましたが,しかし、現在、イギリス,アメリカなどでは使用注意となっています。デパス、エチゾラム、ソラナックス、アルプラゾラムなど効果が強くて持続時間が短いタイプは要注意です。体の症状や自律神経にたちどころに効くので、飲み心地は大変良いのですが、後で困ります。お酒と似ています。薬物療法を開始初期には使った方が治療効果は良いのですが、長く漫然と服用しない方が良いです。まして、困ったときだけ服用する(頓服使用)お守り役は避けた方が良いです。長期的には治らないし、知らない間に悪化することもあります。パニック障害の根本治療には、ならないどころか、パニック障害の長期化や慢性化につながる1つの原因になります。
薬物療法と認知行動療法の併用
パニック障害の治療の初期には、薬物療法が有効だということは先に紹介しました。では、薬物療法によって症状が安定した治療中期以降にも薬物療法を続けていかなければならないのでしょうか?
治療の初期に薬物療法を開始することで、パニック発作自体は起きにくくなります。しかし「またあの場所(状況)で発作が起きてしまうのではないか」という予期不安は薬物療法だけでは、なかなかなくなりません。その際に有効とされるのが、認知行動療法による治療です。パニック障害に対する認知行動療法では、脳が出す危険を知らせるアラームの誤作動と、本当は危険ではない状況をつないでしまっていた、誤った結びつきを適切な結びつきに修正していく治療を行います。
例えば、初めてのパニック発作が電車で起きたAさん。Aさんは、その後電車に乗るたびに「またあの時の発作が起きるかも。電車は危険だから避けよう」と電車を発作が起きる危険な場所と考えてしまいます。しかし、実際にはたくさんの人が電車を利用していて、ほとんどの人は電車が危険な場所だとは考えていません。
A さんの場合、まずは薬物療法によって頻発している発作を一時的に起こりにくくします。症状が安定したら、認知行動療法によってAさんの中のパニック発作と電車の誤った結びつきを緩めていく治療を行います。結びつきが緩んでいくと、不安症状も和らいでいき、薬物療法によって不安を低減させる助けも必要なくなっていきます。さらに、Aさんは認知行動療法によって自分の不安への対処法を学んでいるので、今後発作が起きたとしてもAさん自身によって不安への対処を行うことが出来るようになります。
まとめ
パニック障害の治療における適切な薬物療法は、とても有効です。
パニック障害薬物療法を開始して3週間が大事。「副作用」もパニック症障害の1つかもしれません。
治療初期には、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、精神安定剤は有効ですが、落ち着いたらやめていくことが大事。特にデパス、エチゾラム、ソラナックス、アルプラゾラムなどは注意。お守り薬(困ったときだけ服薬)は、慎重に。知らない間に長期化、慢性化することもあります。
認知行動療法を併用することでより高い治療効果が期待できます。
特にパニック発作には薬物療法は有効ですが、予期不安、広場恐怖、慢性化した身体症状には薬物療法の効果は良くありません。
特にパニック障害がいったん治ったかのように見えても、身体感覚過敏が残っていると再発の可能性が高いです。パニック発作という現れ方だけではなく、慢性的な体の不調という形もあります。認知行動療法の併用をお勧めします。
関連する情報
監修
-
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
最新の投稿
- 社交不安障害専門療法2023年10月27日あがり症・社交不安障害の治療の仕上げ 行動実験
- 心の整理面接2021年6月21日困りごとを整理して、こころの地図を作ろう
- 2021年4月8日生まれつきの気質と変わる性格 クロニンジャー理論 第2回目
- 認知行動療法2021年4月2日性格は生まれつきなの? クロニンジャー理論 第1回目