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薬に頼り切らない治療① ぐるぐる続く考え込み

薬に頼り切らない治療① ぐるぐる続く考え込み

【目次】
考え込みが作り出す悪循環
具体例で理解しよう
今回のまとめ

はじめに

会社へ行けない、ミスが多い、対人関係が上手くいかないといったお困りごとや、
うつ病、不安障害、睡眠障害などの精神疾患には、
共通する要素があると考えられます。

それが、“考え込み”です。

なぜ考え込みを治療することが重要なのでしょうか?なぜ考え込みは、生活での困りごとを維持させてしまうのでしょうか?

今回は、考え込みが作り出す悪循環について具体例も交えながら、解説していきます。

考え込みが作り出す悪循環

考え込みとは、不安なこと、心配なこと、失敗したことを、
ずっと考え続けてしまうことを指します。

何か気になることや不安なことを考え続けるとどうなるでしょうか?
例えば寝る前にいろいろなことに悩むと、寝付くのに時間がかかってしまうことがあります。
また、不安なこと、心配なことを考え続けると、とても疲れてしまいます。

こういった状態が続くと、心のエネルギーが失われてしまいます。
そして、今まで楽しめていたことや興味を持てていたことを楽しめなくなってしまいます。
人との交流を避けてしまうようにもなります。
それまで、ご自身にとって大切だったはずの時間が失われてしまうのです。

そして、そのような時間を過ごさなくなった分、考え込んで日々を過ごしてしまうのです。

このように考え込みから抜け出せず、人と会わなくなり、楽しみの時間を取らなくなり、さらに考え込みの時間が増えていく…。そのような、悪循環へと陥ってしまいます。

具体例で理解しよう

実際に架空ケースで解説をしていきたいと思います。

責任感が強く、努力家な30代Aさん

Aさんは、もともと責任感が強く、勤勉な30代のサラリーマン。
今までの功績が認められ、仕事のまとめ役を任されるようになりました。
上司から売り上げの数値を言われ、その数値を達成するよう日々熱心に仕事を取り組んでいました。

業績が上がらず残業が続く

しかし、思うように結果が出ず、売り上げ数値の半分の数値しか達成することができませんでした。
“自分がだらしないからだ”“自分にはまとめ役は役不足なのではないか”“部下からどう思われているのだろう”“上司の期待に応えることができない”という考えが浮かび、来る日も来る日も残業をしました。
週末は、布団から出ずお昼に起きて、仕事のことばかり考えていました。

楽しめない・眠れない・頭が働かない

身体がつらく、妻や子どもと会話をする機会が減り、週末の楽しみであったゴルフも全くやらなくなってしまいました。
次の日の仕事について考えることが増え、だんだんと夜眠ることができなくなってしました。
しっかり休息することができず、とうとう仕事場でも集中力が続かず、業務の判断をすることに時間がかかるようになってきました。

しかし、責任感の強いAさんは家族にも、職場の同僚や部下にも、上司にも相談することができず、“大丈夫”の一点張り。
仕事に行く前に頭痛や嘔吐を繰り返す夫を心配した妻が会社へ連絡し、精神科・心療内科を受診するよう勧められました。

精神科・心療内科を受診し、治療を開始

精神科・心療内科を受診したAさんは、主治医の問診を受け、働きすぎであったこと・周囲の期待や役職の重責でとても敏感になっていたこと・意欲や喜びが失われていること・眠れないこと・一人で頑張ってきたことなどが明らかになりました。

主治医は、Aさんに休息を指示し、お薬を処方しました。
(お薬は、主治医の医学的な判断のもと、患者様一人一人の状態や生活に合わせたものが処方されます。Aさんの場合は、意欲が戻るお薬、緊張や敏感さが和らぐお薬、睡眠を助けるお薬が処方されました)

休職と服薬を開始し、最初のうちは家で横になって、仕事の心配や罪悪感が頭から離れない日が続きました。
しかし、しばらくたつと少しずつ意欲がわいてきて、外に散歩に出たり、趣味のゴルフのことを考えたり、家族と話したりできるようになってきました。
休職と服薬を始めてから、2か月ほどたったころには、表情も柔らかくなり、安心した感じが漂うようになりました。会社との復職に向けた交渉も始まりました。

薬に頼り切らない治療

主治医は、治療が次のステップに移ったと判断し、Aさんに再発予防グループとマインドフルネスの集団精神療法を勧めました。
Aさんは、グループを運営するスタッフの説明を受け、「また、同じような状況になったときに、こころが不調にならないようにしたい」と思い、グループの参加を決めました。

再発予防グループでは、同じような症状から回復した仲間と体験を話し合ったり、対処法を共有したり、スタッフによるストレスケアのレクチャーを受けたりしました。

マインドフルネスグループでは、呼吸法やボディスキャンなどの技法を通して、今ここの体の感覚を繊細に感じていく訓練を行いました。未来の心配や過去の失敗などを思い出して考え込むことなく、今ここの体の感覚を感じる体験を通して、考え込みに支配されない心と体の状態を体験していきました。

復職

週1回の通院で服薬とグループ療法を続けながら、Aさんは少しずつ職場に戻っていきました。
職場では、今までAさんに負担が集中していたことを鑑みて、Aさんが自分の状態に合わせて仕事の量を調節できるように配慮してもらいました。

職場に順調に戻ることができ、主治医は、治療が次のステップに移ったと判断。様子を見ながら少しずつ、お薬を減らしていきました。
(減薬は医学的見地に基づいた、とても繊細な作業です。きちんとした、服薬がなければ減薬の判断は難しいということを覚えておいてください。)

主治医は不眠や考え込みが再発しないように、慎重にお薬を減らしていきました。
また、再発予防グループで同じ症状を抱える仲間からのアドバイスを実行し、上司や部下と上手に交渉することができるようになり、仕事を一人で抱え込むことが少なくなくなりました。
いつの間にか、考え込みが始まってもとらわれることなく、心の片隅においておけるようになりました。

今回のまとめ

みなさんいかがでしょうか?
今回は考え込みが作り出す悪循環とその治療について、架空のケースを用いて解説していきました。

ぐるぐる続く考え込みのつらさと、それによる悪影響をイメージすることができたのではないでしょうか。

治療の流れとしては①お薬で症状を落ち着かせる段階、②対処法を学ぶ段階、③その対処法を実生活で試しながら新しい生活を始める段階に分けられます。
上の図のように、対処スキルや周りのサポートによって、日々のストレスをうまく乗り切れるようになることを目指します。これが、あらたまこころのクリニックが目指す、薬に頼り切らない治療であり、再発予防になります。
今回ご紹介した再発予防グループやマインドフルネスグループも実施しておりますので、
興味がおありの方は、医師にご相談ください。

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。