マイスリーショック
【目次】
マイスリー(ゾルピデム)とルネスタがアメリカFDAの黒枠警告に指定されました
あらたまこころのクリニックの取り組みでは、「薬に頼らない治療」を求めて、睡眠薬の減薬、休薬を目指しています
マイスリー(ゾルピデム)、ルネスタのメリットとデメリット
マイスリー(ゾルピデム)とルネスタがアメリカFDAの黒枠警告に指定されました
アメリカから、びっくりするようなニュースが飛びこんできました。マイスリーとルネスタがアメリカ食品医薬品局(FDA)の黒枠警告の指定になりました(2019.5月)。
このニュースを目にした方は、驚かれたり、怖いと思われたと思います。
黒枠指定とは、「処方箋医薬品のリスクの可能性についてラベルに記載される警告文の1つで,医学的に深刻な副作用などを引き起こすリスクを伴うことを示すもの」を指します。警告の文面が黒枠で囲まれることからこう呼ばれています。他にも禁煙補助薬バレニクリンや糖尿病薬、アクトス、アバンディア血液の流れをさらさらにするプラビックスなども次々と黒枠になっています。実際にこれらの薬を使えないとなれば、とても困ったことになるでしょう。十分に注意して処方しないといけないことは確かです。内容的には、経験ある精神科医であれば、よくご存じなので、もし服薬後に奇異行動などが認められた際には、主治医の先生に相談されると良いと思います。
あらたまこころのクリニックの取り組みでは、「薬に頼らない治療」を求めて、睡眠薬の減薬、休薬を目指しています
「薬に頼り切らない治療」を求め、睡眠薬の減薬、休薬を目指しています。(これまでのあらたまこころのクリニックの取り組み)
あらたまこころのクリニックは、アルコール依存症と家族などの治療でスタート(今でも、日本嗜癖行動学会の理事、日本アルコール関連問題学会の幹事を務めさせて頂いています)しましたので、薬剤の依存性や依存行動などには、特に注意を払っています。また、名古屋市瑞穂区医師会では、開業医対象に「患者さんを依存にしないために」といった内容の講演会を開き、啓蒙活動をしてきました。
不眠治療に関しても、「薬に頼り切らない治療」を大切にしています。具体的には、不眠の環境チェックや睡眠衛生教育、睡眠生活指導を重視しており、2011年には不眠症の認知行動療法の技法習得のため、国立精神神経医療センターの研修を受け、三島和夫先生(秋田大学大学院教授)から、また短期睡眠行動療法の研修やスーパービジョンを渡辺範雄先生(京都大学大学院准教授)から指導を受けました。当院の患者様の中には、短期睡眠行動療法を頑張って取り組まれ、薬剤なしで完治された方もいらっしゃいます。ただ、短期睡眠行動療法は、患者様にかなりの意欲、時間、そして少しの忍耐が必要なので、受けられる数はごく少数と限られています。現実的には、日本では、多くの人は薬物療法と睡眠衛生教育、簡単な不眠の認知行動療法が主になります。
マイスリー、ルネスタのメリットとデメリット
従来のベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤では、筋肉の力が脱け転びやすいことや依存の問題がありました。非ベンゾジアゼンピン系睡眠導入剤とされるマイスリー、ルネスタなどの短期型の睡眠薬は、筋肉の力が脱けない、依存にならないとNASAなどが勧めていたこともありました。マイスリー、ルネスタなどの短期型の睡眠薬は、寝つきが良く、不眠恐怖、寝室恐怖の人や軽い不眠の人に使いやすい面があります。その一方で、マイスリー、ルネスタなどの短期型の睡眠薬には、一部の人には「半効き」のような状態になり、夢遊病のような状態(自分は記憶にないけれども朝になって気づくと電話をかけていた、料理を作り食べていたなどの奇異行動)が認められます。その場合は、ただちに他の薬に変更します。今回のアメリカFDAの問題は、服薬後、すぐにベッドに入らず、例えば飲酒や風呂に入って溺れた、車を運転して事故を起こした問題(まれだが、深刻な問題)が起きたからという理由のようです。今頃、なぜ?という疑問と極端な印象を抱きます。「いつまでも、マイスリーなどの短期睡眠薬に頼るな!」というアメリカFDAのメッセージなのでしょう。では、どうしようか?「じゃあ、最近、新しく登場した睡眠導入剤は、ベンゾジアゼピン系とは全く違う作用機序なので、ロゼレムやベルソムラに変えれば良いじゃないか?」と、減薬、変薬にトライしていますが、中々、難渋しています。生活習慣、他の薬との飲み合わせ、不眠のタイプなどによっては、簡単にいきません。
とは言っても、奇異行動や夢遊病状態は危険なので、どうしてもマイスリーやルネスタを使う場合は、メリットとデメリットを十分考慮して判断する、他の薬剤や薬以外の治療方法を検討することは絶対必要です。私としては、まず急場は少量の薬剤と睡眠衛生教育と不眠の認知行動療法の組み合わせがお勧めです。そのうち睡眠薬がなくなり、毎月のレセプト請求点検で「不眠症」の病名が消えていくことが、何よりもうれしいです。
関連リンク
FDA requires stronger warnings about rare but serious incidents related to certain prescription insomnia medicines: Updated warnings for eszopiclone, zaleplon and zolpidem
関連する情報
監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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