院長が不眠症の講演を行いました。~眠る力を引き出す治療と邪魔しない薬物療法~
【目次】
不眠症の治療方法
不眠症への薬物療法にはリスクもある
不眠症にはタイプと悪循環
チーム医療で不眠を繰り返さない
不眠が習慣化してしまった方への短期睡眠行動療法
おわりに
はじめに
2020年9月7日(月)会場にて、あらたまこころのクリニック院長の加藤が、地域の勉強会で睡眠障害のセミナーを講演しました。
今回は、その内容の一部を皆様にご紹介したいと思います。
不眠症の治療
不眠症の治療は大きく2つにわけられます。
①薬物療法
②非薬物療法(睡眠衛生治療教育、環境調節、睡眠短期行動療法など)
薬物療法には「睡眠薬に依存してしまう」というリスクもあり、不眠症の治療では、薬物療法に非薬物療法を一部取り入れながら、行っていきます。
以下で詳しくお伝えしますが、医師が適切と判断した患者様には、短期睡眠行動療法という治療プログラムをお勧めすることもあります。
不眠症への薬物療法にはリスクもある
睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)は漫然と処方されやすい
不眠症に対して、よく処方される睡眠薬はベンゾジアゼピン系と呼ばれる系列のお薬です。飲めばたちどころに不安や緊張や不眠などが解消され、「切れ味が良い」「魔法の薬」と称され、患者様にも喜ばれます。また、安全性が高く、使い勝手が良いため医師からも好まれます。
それ故に、検査所見で異常のない身体症状や不定愁訴、診断がハッキリしない場合「とりあえず服薬して様子を見よう」と処方され、即効性もあって以後も長期にわたって漫然と処方されることがあります。
睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)の副作用
かといって、ベンゾジアゼピン系薬剤に副作用がないわけではありません。時に、認知機能の低下、日中の眠気、一過性の健忘、せん妄などが起こりますし、長期的には依存などのリスクがあります。ここが、ベンゾジアゼピン系の怖いところです。
依存が起こると…
依存が起こると以下のような問題が生じます。
- 耐性:同じ要領では効果が得られなくなります。
- 離脱症状:薬が切れた反動で、薬を飲まないと、強い不安や心身の苦痛を感じるようになります。
- 常用量反跳性不安:通常容量でも、軽い離脱症状が起こり、それに対してさらに処方を増やし、薬の量や種類が増える悪循環が起こることがあります。
上の図をご覧ください。ベンゾジアゼピン系薬剤のなかでも、一時的にかつ強く作用する薬は、薬を飲んだ直後は不安や緊張が治まりますが、薬の効果が切れてきたころにその反動で、不安や緊張がぶり返します。このようなプロセスを繰り返す中で、お薬が手放せなくなってしまいます(常用量反跳性不安・依存の形成)。
つまり、常用量反跳性不安を起こさないような処方の工夫が必要になり、医師の正しい処方とそれを守った正しい服薬が大切なことがわかります。
不眠症のタイプと悪循環
不眠症の定義
不眠症は、
睡眠が、質や量において十分でなく、昼間も眠気が残って仕事などに支障が出る状態
と定義されます。
具体的には、寝つきが悪い・夜中に目が覚める・朝早くに目が覚める・眠れたけどぐっすり眠れた感じがしない・昼間も疲れが取れず、眠気が残る・集中力や注意力、記憶力が落ちる・昼間イライラする・眠れないことに不安になる、といった形で現れます。
また大きくわけて下記の4つのタイプがあります。
1.なかなか寝付けない(入眠困難)
2.夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)
3.朝早く目覚めて眠れなくなってしまう(早朝覚醒)
4.ぐっすり眠れた感じがしない(熟眠困難)
日本人の成人の3人に1人は、少なくとも時々は不眠になり、そのうち10-15%は慢性的な不眠と言われています。
考え込みの悪循環が不眠を招く?
上の図をご覧ください。ほかの精神疾患と同じように、不眠症にも生物・心理・社会的な要因があります。その中でも、心理的要因では“考え込み”による悪循環が形成され、それが不眠症の慢性化を引き起こしていることが多くあります。
当院(あらたまこころのクリニック)では、主治医に加えて、心理師や看護師によるチーム医療で、この悪循環を解消していく事を重視しています。(詳しくはこちら)
チーム医療で不眠を繰り返さない
悪循環を解消するには薬に依存することなく、自分の力でストレスや悩み事を対処し克服していく力を身に付けることを目的とした治療が必要です。
心理療法の最初のステップでは、“こころの整理面接”を行います。
症状によってはお薬による治療で初期症状を抑えつつ、少しずつ自身の困りごとを整理していきます。
自分の苦手なパターンを見つけ、そのパターンを自分の力で克服できるよう訓練していくためです。
当院では非常に多彩な集団療法(グループ療法:同じような困りごとを共有するメンバー複数名で行う心理療法)を実践しています。
自分の困りごとが整理できていると、スタッフと相談しつつ自分に必要な治療方法を選択していくことが可能となります。
こうして自分で困りごとを対処する力を少しずつ身につけ、実際に日常生活に落とし込んでいきましょう。
特に不眠に関係するチーム医療のひとつとしては短期睡眠行動療法というものがあります。次の章では短期睡眠行動療法についてご説明します。
不眠が習慣化してしまった方への短期睡眠行動療法
長く続く不眠症で、かつ、精神疾患や身体疾患が原因にないものは、原発性不眠といわれます。
昼夜逆転の生活、徹夜続きの生活、環境の変化などで起こった一時的な不眠が、その原因が取り除かれても継続している状態、つまり“眠れない状態が習慣化してしまっている”状態です。
このような不眠に対する治療法に短期睡眠行動療法があります。
短期睡眠行動療法
原発性不眠には渡辺範雄先生が開発された睡眠短期行動療法がおこなわれます。
この治療では、「眠れない癖(維持因子)」を「ぐっすり眠る癖」に変えていくために、
①睡眠日誌をつけ、
②睡眠環境や生活習慣を整え、
③寝床と「睡眠」を条件付け、
④睡眠力(ぐっすり寝る力)を高める取り組みを行います。
詳しくはこちら(①②③④)のブログに譲るとして、今回は不眠の方に関わらず、皆さんにお役に立つ、質の良い睡眠のコツについてお伝えしていきましょう。
光、音、体温への対応が重要
質の良い睡眠には、光、体温、音への対応が重要です。ひとつずつ見ていきましょう。
光や音
睡眠中の光や音は、質の良い睡眠を妨げます。睡眠中は意識がないので気が付きませんが、睡眠中の刺激に対して、脳はしっかり反応しています。特に光は、覚醒を促す刺激であり、朝日で必要以上に早く目が覚めてしまうことは皆さん経験されたことがあると思います。
なので、寝室の音や光はシャットアウトするほうがいいでしょう。朝日が昇ってからも部屋を暗くするために、遮光カーテンを引いたり、アイマスクを使うのも良いでしょう。睡眠中に隣家や道路から音が聞こえてくるようなら、二重窓にしたり、耳栓を使うのもいいかもしれません。
もちろん、寝る前にスマホなどのブルーライトを浴びるのも控えたほうが良いです。
体温
上の図をご覧ください。この図で分かることは、深部体温が下がり始めて、3-4時間ほどたった23時ごろに眠気がピークに達するということです。つまり、23時ごろに熱いお風呂に入ったり、運動したりするなどして体温を上げてはいけません。この時間に体温が上がることで“体温と眠気のリズム”が崩れてしまいます。お風呂に入るのであればぬるめのお湯にして、布団に入ってからスムーズに体温が下がるようにしましょう。
睡眠環境チェックリスト
これらを具体的にまとめたのが、睡眠環境チェックリストになります。当院で実際に使っている用紙をアップしました。
睡眠短期行動療法でも利用されるこのチェックリストを通して、自分の生活習慣や睡眠環境を見直し、すぐにできそうなところから少しずつ改善していきましょう。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は不眠症セミナーの中から一部抜粋してお伝えしました。
ご自身の不眠症が気になる方は早めに専門機関を受診して頂ければと思います。早期発見、早期治療がとても大切です。
あらたまこころのクリニックでも、薬に頼り切らない治療の一環として、医師が適切と判断した患者様に対して、短期睡眠行動療法を実施しております。
また院長の加藤が名古屋市医師会にてベンゾ系睡眠薬の依存を講演するなどして、睡眠薬の依存を防止する啓蒙活動に力をいれているクリニックでもあります。
不眠でお困りでしたらぜひご相談ください。
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<不眠症についての記事はこちら>
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関連する情報
監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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