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不眠症の治療や治し方とは?薬物療法と非薬物療法から治療の流れまで

不眠症の治療や治し方とは?薬物療法と非薬物療法から治療の流れまで

なかなか寝付けない、途中で目が覚めてしまう、しっかり寝られない・・・。 これでは日中でも眠気やだるさから抜けられず困ってしまいますよね。

慢性化した不眠症は、自然に治ることはあまり期待できないため、治療が必要です。 この記事では不眠症にはどんな治療があるのか、また実際にどのような流れで治療をしていくのかについて触れていきます。不眠症に悩まされている方や周りの方も、ぜひ参考になさってみてください。

不眠症とは?

「布団に入ってもなかなか寝つけない」といった体験は誰もが持っていますが、そのほとんどが一時的なものです。ストレスや緊張など、原因はさまざまでも一般的には数日、長くても数週間のうちにまた眠れるようになります。不眠症とは、慢性化した不眠の症状が1ヶ月以上続き、体や心に不調があらわれ日常生活に支障をきたすことです。

不眠の症状は、大きく分けて以下の4つのタイプがあります。

  • 入眠困難:なかなか寝つけないタイプ
  • 中途覚醒:睡眠中に何度も目が覚めたり、その後寝つけなくなるタイプ
  • 早朝覚醒:朝、予定より2時間以上早く目が覚めるタイプ
  • 熟眠困難:睡眠時間のわりにぐっすり眠った気がしないタイプ

不眠の原因は、身体的・心理的な要因や、環境・物理的な要因、精神疾患や薬の副作用など、さまざまにあるため、対処法も異なります。まずは、自分の不眠はどのタイプで、どんな原因が考えられるかを把握することが大切です。

関連記事:不眠症の5つの原因とは?具体的な原因例から治療法まで解説

不眠症の治療とは

不眠症の治療は、主に以下の2つに分けられます。

  • 薬物療法
  • 非薬物療法

「薬物療法」は、睡眠薬による治療法で、患者さんの症状や不眠の程度に応じて処方されます。「非薬物療法」とは、薬を使わない治療法で、睡眠環境チェックや睡眠衛生指導、認知行動療法などによって、生活習慣や睡眠環境の改善を行います。

身体的、精神的疾患が不眠の背景にある場合は、その疾患の治療が優先されます。不眠症の治療で目指すべきゴールは、薬でよく眠れる状態にすることではありません。睡眠環境や生活習慣を整え、薬に頼らなくても十分な睡眠がとれる状態にすることです。不眠症の治療期間は人によって異なりますが、薬の選び方や不眠の習慣・環境を改善することが、不眠を長引かせないコツでもあります。

不眠症の治療1:「薬物療法」

不眠症の薬物療法

薬物療法では、一般的に睡眠薬を使用します。睡眠薬は効き目を感じやすく、飲むと不安や緊張が解消され、睡眠への効果が見られます。しかし、「誰でも、これさえ飲めば眠れる」という睡眠薬はなく、それぞれ一長一短です。

薬物療法で大事なのは、十分な診断です。眠れない病気というのは80種類もあると言われており、不眠の原因を検討せずに「ハイ。眠れる薬をどうぞ」というのは、不必要な睡眠薬を服用することになり後々困ることになるかもしれません。問診では、不眠の症状や生活習慣を正しく医師に伝えましょう。

不眠症治療薬は主に3つ

現在、一般的に広く使われている不眠症の治療薬は主に以下の3つです。新しく登場した薬剤により、治療薬の選択肢も増え、安全性も高まっています。治療に使う薬は、患者の不眠症状に合わせて処方します。

代表的な治療薬 特徴
GABA受容体作動薬 脳の働きを抑えて眠りをもたらす
メラトニン受容体作動薬 体内時計を調整し、睡眠と覚醒のリズムを整え眠りをもたらす
オレキシン受容体拮抗薬 覚醒状態を押さえて眠りをもたらす

知っておきたい依存によるデメリット

上記の薬以外にも、以前不眠症の治療薬として広く使われていたベンゾジアゼピン系という薬があります。即効性があり、上手につきあえば有効な薬ですが、服用には注意が必要です。ベンゾジアゼピン系薬剤のなかでも、効果が一時的に強くなり、かつすぐに消えていく過程で不安や不眠が悪化する薬としてデパス、エチゾラムなどがあります

服薬と不安を繰り返す中で、薬が手放せなくなってしまい、依存性の問題が生じることがあります。薬物治療を行う際は、薬の依存によるデメリットも知っておきましょう。依存によるデメリットは、大きく以下の4つがあげられます。

  • 同じ容量では効果が得られなくなってくる。
  • 薬の効果が翌日まで持ち越され、午前中に眠気やふらつきやすくなる。
  • 睡眠薬を突然中止することで、かえって症状が強くなる。
  • 軽い離脱症状が起こる場合に処方を増やし、薬の量や種類が増え悪循環となる。

睡眠薬との正しい付き合い方

薬が手放せなくなる可能性があるから「睡眠薬は怖いお薬であり、飲んではいけない」ということではありません。現在、不眠症の治療薬として使われている薬は副作用も少ないため、安心して使うことができます。あくまでも医師の正しい処方と、それを守った正しい服薬が大切なのです。自分のさじ加減で1錠追加する、知人の睡眠薬と交換するなどはしてはいけません。特にアルコールと一緒に服用するのは絶対に避けて下さい。不明な事があれば医師に相談してみましょう。

なお、当院は、睡眠薬などの依存を防止する啓蒙活動に力をいれています。名古屋市医師会において、患者様が薬を手放すための医師向け講演や、論文執筆を行なっています。

睡眠薬の正しい服用方法については、「睡眠薬の正しい服用方法とは?服用の方法から、よくある睡眠薬の質問について」をぜひ読んでみてください。

不眠症の治療2:「非薬物療法」

不眠症の2つの非薬物療法

続いて、睡眠薬を使わない「非薬物療法」を紹介します。非薬物療法には、以下の2つがあります。

  • 生活習慣の改善
  • 認知行動療法

しかし、生活習慣の改善だけでは治らなかったり、認知行動療法も全ての人に有効という訳ではないため、人によっては非薬物療法と同時に睡眠薬を使用します

また、不眠症と思っていたら、不安障害やうつ病などの不眠恐怖、考え込みなどが原因の不眠症が起きている場合があります。この場合は、睡眠薬ではなく、うつ病の治療やマインドフルネスなどが効果があることがあるため、不眠の診断が大事です。

生活習慣の改善

不眠の症状や状態をヒアリングし、睡眠衛生指導をもとに不眠の原因となる生活習慣を改善します。睡眠時間の適正は人それぞれのため、睡眠時間にはこだわらないようにしましょう。睡眠の環境や生活習慣を見直すことで、不眠に効果があるケースもあります。

<睡眠衛生指導の例>

  • 適度な運動を取り入れる
  • 規則正しい食生活をする
  • 快適な寝室の環境づくり
  • 寝る前の習慣の見直し(カフェインやアルコールは摂らない、リラックスする)
  • 朝日を浴びる

認知行動療法

睡眠薬自体に依存性は少なくても、心理的に頼ってしまうことがあるので、そんな方に有効なのは認知行動療法です。認知行動療法は、考え方と行動のパターンを変える治療法ですが、あらたまこころのクリニックでは、不眠症のための「治療プログラム」で原因を診断し取り除いていきます。

特に長く続く不眠症で、精神疾患や睡眠時無呼吸症候群など身体疾患が原因にないものは、渡辺範雄先生が開発された、下記の睡眠短期行動療法を行うことがあります。

不眠症治療プログラムで実施する「4本の柱」

# 4本の柱 概要
1 睡眠日誌
  • 毎朝、何時から何時まで、どれくらい眠れたかなどを記録
  • 自分の睡眠のパターンを知り、治療戦略を練る
2 睡眠環境調整
  • チェックリストで睡眠環境を確認し、不眠の原因を探る
  • 自分の睡眠の環境を見直し、質の良い睡眠のために必要な生活習慣についてレクチャーを受ける
3 刺激コントロール 「寝床は眠る以外には使わない」ための、以下の3つを忠実に実践していきます。

  1. 寝床では、睡眠以外の行為をしない
  2. 途中で15分以上目が覚めてしまったら、寝床を出る
  3. 寝床に戻るのは眠くなった時だけ
4 睡眠制限法
  • 最初は短い時間だけ寝るようにし、睡眠の質が上がってきたら徐々に時間を増やす方法
  • 必要な睡眠時間のみ寝床にいるようにし、睡眠の質が良くなるよう導く

不眠症治療プログラムにつきましてイメージがわきましたでしょうか?こうして出来るところから少しずつ睡眠環境を改善していき、「質の良い睡眠をとる癖」をつけていきます。

不眠治療の流れ

不眠症の治療について解説してきましたが、次は実際にクリニックを受診した際の、不眠症治療の流れを時系列でご紹介します。

不眠症治療の流れ

①開始時:日常生活を見直し、不眠の原因となる生活習慣を改善する。

不眠の症状や状態を医師に伝え、睡眠衛生指導をもとに不眠の原因となる生活習慣を改善する。

②初期:症状に合わせてお薬を服用する。

生活習慣の改善、治療プログラム(行動療法)と同時に、必要に応じてお薬を使って治療する。

③改善期:症状が改善したら薬を減らす。

良い睡眠のための生活習慣が定着し、症状が安定して、医師と相談して睡眠を減らしていく。

④安定期:睡眠薬をやめたり、他の薬に変えて様子をみる。

薬をやめても状態が安定していることを確認し、治療を終了する。良い睡眠のための生活習慣は続ける。

このようなプロセスによって、不眠症は安全に治療することが出来ます。

不眠症の治療は何科の病院に行くべき?

不眠症の治療は、症状が不眠だけの場合は内科で診ることができます。しかし、不眠症の多くは、精神的ストレスや倦怠感などを抱えていることがあるため、心身の不調を感じる場合は精神科や心療内科がおすすめです。眠れない状態を放置していると、眠れないことに不安や焦りが大きくなり、不眠がどんどん悪化してしまいます。

日中の眠気や集中力の低下、体のだるさなど、日常生活や社会生活に影響をおよぼすだけでなく、不眠が長期化することによって、生活習慣病やうつ病など他の疾患を発症するリスクも高まるため、早期の対策が必要です。ひとりで悩まずに、まずは専門医に相談してください。

まとめ:不眠症治療のゴールとは、薬に頼らず十分に睡眠できる状態のこと

ここまで不眠症の治療についてまとめてきました。不眠症の治療は、「薬物療法」と「非薬物療法」があり、まずは睡眠環境や生活習慣の見直しが大切です。

薬物療法を行う際は、薬の特性を理解し、医師の正しい処方と正しい服薬で、薬がなくても十分な睡眠がえられる状態を目指しましょう

あらたまこころのクリニックの治療理念は「薬に頼り切らない」です。不眠治療でも、睡眠環境や生活習慣の見直し、積極的な良い睡眠の取り組みを大切にしています。本記事を読んで、ご自身の不眠症が気になる方は早めに専門機関を受診して頂ければと思います。早期発見、早期治療がとても大切です。こじれて、うつ病になったり寝酒が増えてしまったりしないようにしましょう。

あらたまこころのクリニックでも不眠でお困りの患者様に対する治療に取り組んでおります。ぜひご相談ください。

関連記事:不眠症とは?不眠の原因から症状、何科に行くべきなのかまで網羅的に解説

関連記事:不眠症の4つの症状タイプについて。不眠症のチェックリストも合わせてご紹介

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。