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公開日: |更新日: アルコール依存症

コロナ禍でのアルコール健康被害と減酒治療(セリンクロ)

コロナ禍でのアルコール健康被害と減酒治療(セリンクロ)

  NHKクローズアップ現代と言う番組で、先日「減酒外来」が放送されました。あらたまこころのクリニックも今回の放送ではありませんが、以前に、「良い子が危ない」というタイトルで、NHKクローズアップ現代で番組制作され全国放送になったことがあります。アルコール依存症の患者様には断酒治療とセリンクロやスマホを使っての減酒治療も行っています。

今回のNHK番組をご紹介したいと思います。

 

目次

コロナ禍でアルコール問題が増えている

セリンクロと減酒治療

コロナ禍でどんなタイプがアルコールで困っているのでしょうか?

アルコール依存症スクリーニングテストについて

減酒治療の流れ

 

 

コロナ禍でアルコール問題が増えている

   失業のストレスから飲酒量が増え記憶が飛ぶようになった女性飲み会に行けないストレスから暴飲に走り警察に保護された中年男性コロナ禍が長引く中、飲酒量が増えたという人が続出しています

 日本最大のアルコール依存症治療機関である久里浜医療センターでは、電話相談が前年の1.5倍に増加。都内の心療内科では、アルコール依存症の新規患者の3割が、コロナによる失業や生活の変化が原因と見られるといいます。

 こうした中、筑波大学付属病院では4月に「アルコール低減外来」をオープン。新薬を使い、酒を完全には断たない「減酒治療」に取り組んでいます。いまだ終息が見えないコロナ禍の日本で、アルコールとの上手な付き合い方、今後の課題を考えていきます。

 

セリンクロと減酒治療

  アルコール依存症になると、自分の意思ではお酒の飲み方(飲む量、飲む時間、飲む状況)をコントロールできなくなるため、飲みたい気持ちがおさえられなくなることから飲酒中心の生活となり、仕事や家庭に支障をきたしてしまいます。

 これまでの治療は、アルコールを完全に断つ断酒が中心でしたが、2019年3月より、アルコール依存症飲酒量低減薬であるナルメフェン(商品名はセリンクロ)が導入されたことから軽度の依存症を対象にお酒を無理にやめずに減らしていく選択肢が増えました。

 病気をガッツリ押さえ込む治療ではなく、ハームリダクション(病気の害を減らす)という考え方です。

 

コロナ禍でどんなタイプがアルコールで困っているのでしょうか?

  コロナ禍でアルコール健康被害が広がった。

  今回、取材で目立ったのはこれまであまり飲まなかった人がアルコール依存に陥る実態です。

 旅行会社で添乗員をしている女性は、コロナの影響で、この1年仕事が全くなく、自宅待機が続いています。以前は休日の前夜だけ飲酒をしていましたが、しだいに量が増え、毎日飲んでしまうようになりました。

職場の人との関わりが減ったことで、依存に陥った男性は、スマホアプリの会社を経営、コロナの流行以来、感染対策やリモートワークを支援するアプリが注文殺到。仕事に追われるようになりました。男性以外の社員は、全員リモートワークで、1人出社して激務をこなすうちに、ストレスを発散する手段がなくなってしまいました。夜遅くに帰宅する日々が続き、飲まないと眠れないために毎晩900ミリリットルの焼酎をストレートで1瓶空けました。感染状況が落ち着き飲みに行くも途中で記憶なくし、記憶をなくす頻度が増えていきました。

「長引く自粛生活で断たれた社会とのつながり。その不安やストレスから、知らないうちに飲みすぎてしまう」と、さくらの木クリニック秋葉原の倉持穣院長は話されています。

「孤独の病気と言われている。コロナでつながりがなくなりお酒にストレス発散を求めている。コロナが収まってないから、もっと増えて行く可能性がある」

 

 また、久里浜医療アルコールセンターでは、2019年に比べると2020年は1.5倍ぐらいアルコールの相談が増えていて、コロナに関する相談もきています。

例:「仕事がなくなってしまったので、その分お酒を飲む」「テレワークがあって、そこでお酒を飲んでしまう」「顔が赤いと注意される」「主婦の方でご主人と子供が家にずっといて、ストレスが高くなって飲む」

 

 国税庁のデータによると、2019年に比べると、2020年、2021年は飲酒量が減っている、アルコールの消費量が減っているということです。これは恐らく家飲みじゃなくて、外飲みが減ったためと思われます。

 逆に家飲みが増えているのではないかと懸念する声もあります。

 例えば、外飲みの場合は、周りが「飲み過ぎだよ」など注意してくれますし、「電車に乗り遅れちゃう」など言われることがありますが、家だとそういうことがなく、ブレーキがなくて、いくら飲んでもそのまますぐ寝られます。そんな状況になってしまうと、オン・オフのさかいがなくなっていきます。たしかに酒を飲んでいるうちに、そのまま、寝ているなんてことはありそうですね。

 

 

アルコール依存症スクリーニングテストについて

 アルコールは依存性薬物と同じと同じように依存性があります。

国のアルコールに対しての取り組みとしては、厚生労働省が、アルコール依存のお酒の飲み方を大きく変える動きとして、今年3月に新しい計画を出しました。今までは、お酒の容器にアルコール度数を%表示するように法律でメーカーに義務付けていましたが、実際に含まれている量が分かりにくいことの指摘がありました。

取り組みとしての狙いは、お酒の種類はたくさんあるために実際にどれくらいアルコールが入っているかわからないため、グラムにすることで1日どれくらい飲んだのか明確にできるということです。

 

【厚生労働省の生活習慣病のリスクが高まるアルコールの摂取量の目安】

 1日の目安 男性40グラム 女性20グラム  (当院のブログとリンク)

【1日の目安が、女性は男性の半分になる理由】

女性は男性に比べて肝臓が小さいので、アルコールの分解が遅れます。アルコールは肝臓だけではなく筋肉でも分解しますが、その筋肉も女性は少ないのでアルコールの分解が遅いのです。

②また、女性は、男性と体重が同じでも脂肪の量が多いです。脂肪の量が多いと、脂肪はあまり溶けないので、その分だけ水分が少なく、水分が少なければ水分血中濃度も上がりやすいです。

③女性ホルモンが影響して肝臓障害を引き起こしやすくなることなども関連します。

 

 

減酒治療の流れ

  あらたまこころのクリニックでは、医師との診察、血液検査や心電図など、身体症状や今おかれた家族関係や職場との関係など現状を詳しく把握して、断酒治療か減酒治療のどっちにするか決めていきます。

 そして、患者自身が目標とするアルコール量を決めていきます。

 毎日の生活で飲んだ量を正確に記録し、必要に応じてセリンクロ、レグテクト、ノックビン、シアナマイドなどの減酒薬や断酒薬を選び服用します

 減酒治療になるとセリンクロが主で、他にレグテクト、ノックビンを加えたり、調整することもあります。

その後も定期的に通院しながらお酒との上手な付き合い方について学んでいきます。

 

【セリンクロ(ナルメフェン)を服用することでの効果】

  通常アルコールを飲むと、脳内のエンドルフィンなどの神経伝達物質が分泌されます。

この伝達物質が受容体と呼ばれる部位に結合することで、飲酒による高揚感や気持ちのいい感覚を得られます。

しかし、減酒薬を飲むと、神経伝達物質より前に、薬のほうが受容体と結合します。そうすると、お酒を飲んでもエンドルフィンなどが結合できず、高揚感や快感を得られにくくなります。その結果、自然と飲みたい欲求が抑えられる仕組みです。

 

【スマホアプリを活用】

 自分の今現在のお酒の量を評価して、それで減らしたいと思う目標を作り、それを毎日モニターしていきながらうまくいっているか確認します。

 

 減酒治療は、あらたまこころのクリニックでも始めていますが、中々、好評の様です。

ご自身の心と体の健康、家族、職場の関係が良くなっていくといいですね。

アルコール依存症の治療目標は、人とのつながりが良くなることです。

 

関連する情報

監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。