大人になってからASD(アスペルガーや自閉スペクトラム)やADHDなどの発達障害に気づく女性は多い?
大人になって発達障害と気づくのは女性に多い?
前回は、「大人になって発達障害と気づく女性には何が起きているのか」についてご紹介しました。
今回は女性の発達障害が、本人も周りにもなぜ気づきにくいのか?についてお伝えします。前回のリアンのようにお子さんが診断されて気がつく人もおられるように、女性の発達障害は男性よりも見つかりにくいのかもしれません。これまでの論文などの調査報告では、疫学的には自閉スペクトラム障害、アスペルガー症候群、ADHDともに男性に多いとされています。ですが、あらたまこころのクリニックのような外来中心の心療内科、精神科のクリニックでは印象は違います。「自分は発達障害ではないか?」と自ら受診され、他の適応障害など精神疾患や自律神経失調症などの原因不明の体の症状の背後に発達障害が隠れている重ね着症候群などは、私見ですが、女性の方が多いのではないかと印象を抱いています。言い換えると、女性の発達障害は、特に子供時代には男性よりも見つかりにくいかもしれません。診断がついていないけれども、本人の悩みは心の奥で徐々に進み、大人になって、社会に出てから周りとの違和感が大きくなる、適応障害、慢性的な体の不調や不眠、パニック障害などの不安障害、うつ病などになる。そのことをきっかけで、気づくということかもしれません。
女性の発達障害では子供時代に気づかれないことがあります
大人になって発達障害と気づくということは、子供時代にはっきり自覚できず、周りからも気づかれなかったが、高校、大学などに入学あるいは就職して社会人になり、もともと隠れていた自閉スペクトラムやADHDの特性によって悩みや問題が現れ、大人になって初めて診断された人もいます。発達障害は生来のものですから、大人になって初めて発症したのではなく、子ども時代には見つからなかったということになります。周りが見逃したという訳でもなく、もともと女性の発達障害の特徴として見つかりにくいかもしれません。それはなぜか?
女性の発達障害が気づきにくい理由
日本の社会的な風習、常識が理由にあるかもしれません。
学校時代、女の子は男の子と比べて、集団の中で行動するときに、自分を抑え、隠さないと集団についていけないところがあり、その過程で、発達障害的な部分を上手にカバーすることを覚えていく子もいます。前回のリアンもその1人。人気のある同級生の口ぶりや振る舞いを観察して、上手に覚え込んで真似をしていました。「つらい演技」とリアンは「アスペルガー症候群の処世術」と呼ばれる著書「アスペルガー的人生」で述べています。
例:「本当は人の話の細かいところに引っかかってしまうけど、適当に流すところは流して、引っかかり過ぎないようにしている。とりあえず、相手が嫌な顔していないかどうか確認しながら。」(ある発達障害女性の語り)
自閉スペクトラムでは、「同じことをきっちり繰り返す(常同、こだわり)」、「臨機応変な人間関係が苦手」などがみられ、会話も自発的に話しかけないので、受け身で自分からは主張しないので、周りからの社会的な女子像からは、「大人しい」「優等生」と見られ心の奥の悩みを理解してもらえません。
ADHDでも、多動・衝動型は問題行動となり周りからも気づきやすいのですが、同じADHDの不注意型では、女子の場合、「ぼーっとした子」「おっとりした子」「空想好きの夢見る女の子」「天然」として社会的に受け入れられるので、女の子の発達障害としての特性は目立たず、誤解されることも多いのかもしれません。
女性の発達障害では検査や診断法が男性と違う現れ方をすることがある
一つは、診断基準や心理検査が男性の発達障害の行動様式を基準にしているからかもしれません。そのため、病院で検査を受けても、自分では、発達障害だろうなと、うすうす気づき悩んでいても、検査では特性が感知されず、「あなたは発達障害ではありません」と言われ違和感を覚えることもあります。
上の図をご覧ください、これは、本橋・斉藤(2016)より抜粋した、男児と女児の発達障害の特徴を比較したものです。
自閉スペクトラムでは、女性では、発達障害の特性自体が、男性と比較して感覚過敏が強く、常同行動が少ない、自閉的特徴を意識して補う傾向があるとされています。社会場面でも対人困難があまり見られず、一見すると集団に適応しているように見える傾向があると報告されています。その結果、学校などでは、大人しくて良い子と見られることも多いです。
例:「本当は宇宙人なんだけど、学校に行く時は人間もどきをやっていた」と回想する自閉スペクトラムの女性。
カモフラージュと内在化の先にあるもの
見つかりにくいのは、精一杯適応しているから。しかし…。
見つかりにくいのは精一杯適応しているからです。でも、それは、発達障害の女性に無理を強いるものでもあります。
自閉スペクトラム、アスペルガーの女性は、障害を分かりづらくする様々なベールを、社会の中でまとっています (砂川2015)。学校場面でのベール、会社でのベール、家庭でのベールとそれぞれ用意しないといけないので疲れてしまう。学校では「おとなしい子」、職場では「勤勉な人」、家庭では「一生懸命なお母さん」。学校では、「女子の面倒くさい人間関係で自分を出すと浮いてしまう、自分を隠さないとついて行けない、友達は欲しいけれども、その関係を続けるのは疲れる。自分の発達障害を分かってくれる人を求めるが、そのやり方が分からない。そうしているうちに疲弊し、二次障害を併発。中学高校生では、適応障害、あがり症、社交不安障害、強迫性障害、パニック障害、大人になっていくと適応障害、全般性不安障害、うつ病などの精神疾患のベールをまとって、背後にある発達障害が、さらに分かりにくくなってしまいます。重ね着症候群と呼ばれます。いくら内科で検査しても説明の付かない胃腸の不調、吐き気、めまいなどの体の不調、自律神経失調症などが気になって仕方がないことがあります。また、実際に気管支喘息、糖尿病などの病気にかかることも多いかもしれません。
一見、適応して見える発達障害の女性ですが、内面ではいろんなことを考えて努力して、疲弊していることが分かってきました。そのような人は、自分らしくいられる場所が必要になるのです。
例:「カウンセリングで、理解してくれる人がいるから何とかやれている。」「ずっと優等生のまま振舞って、もつのだろうか」「『言っても分かってもらえないから』、親の前でもニコニコしている」と語る、ADHDの女子生徒。
発達障害で学校などで不適応、適応障害を起こした時、多動/衝動性やコミュニケーションの障害など、ストレスが外に向かう形で症状化するので発見されやすい。これを外在化障害と言います。反対にストレスが内に向かう形で症状化することを内在化障害と言います。発達障害の悩みが外からは見えにくい。もちろん男性も感覚過敏や内在化は多く見られ、カモフラージュ、重ね着症候群も起きてきます。カモフラージュなどの男女差について研究は、まだ始まったばかりなのでこれからのテーマでですが、内在化障害については、女性の場合は、より複雑に進行するかもしれないので気付きや十分な援助が必要と思っています。
まとめ
これらのことから分かるのは、「幼い頃から不安を強く感じやすい」という、女性の発達障害の実態です。幼少期には、分離不安や場面緘黙など分かりやすい行動として見えてくるものが、中学生以降では、あがり症、社交不安障害などの周りからは見えにくい形になっていきます。
その先にあるのは、不安な中で何とか、「それらしき振る舞い」をして乗り切るカモフラージュ。そして、その姿が周囲からは適応しているように映り、「おとなしい子」「優等生」「良い子」という風にみてしまい、本人もその辛さを訴えられなくなっていく…、という悪循環です。女性の発達障害では、より複雑に内在化する傾向があるので、適応障害、うつ病・パニック障害、上がり症、社交不安障害などの不安障害・心身症、自律神経失調症、HSP、HSCなどの関係が強くなるかもしれません。
そして、その不安は社会に出てから(高校や大学卒業後)、就職、結婚などを機に最大化します。適応障害となり、うつ病発症のリスクも高まります。重ね着症候群を遡っていくとこのような流れになります。早めに自閉スペクトラム症やADHDなど発達障害の特性に気づき、対策が必要なのもこういった理由です。次回は、カモフラージュ、内在化をとり上げていきます。
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監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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