摂食障害の心の中では何か起きているのか?
はじめに
これから摂食障害(主に過食症)について、何回かに分けてお伝えしていきます。
あらたまこころのクリニックでの30年間の治療や自助グループ(患者自身の集まり)、家族機能研究所、さいとうクリニック勤務での経験を元にして、患者さんや家族の声なども紹介しながら、まとめてみました。
摂食障害とは?から始まり→架空の事例→こころの在り方→治療まで、盛りだくさんの内容ですが、わかりやすい入門記事になるように努めました。興味のある方は一度、ご一読ください。
今回は“架空事例”も紹介しながら、摂食障害の方の“こころの在り方”についてみていきます。
※拒食症については、低体重による内科的な処置が、あらたまこころのクリニックでは対応できないため、詳しくは触れていません。過食症、過食嘔吐症に限定した内容になっています。
どんな人がなりやすいの?
摂食障害になりやすい性格はあるのでしょうか??
- 自分に自信がなく、他人の評価に敏感で、「良く思われていないといけない」と、無理して背伸びしている。
- 完璧主義 0か100かで人や物事を考える。
- 人に本音や弱いところを見せたくない、話せない。
といった人になりやすいと言われています。
とはいえ、摂食障害は、社会・文化的要因、心理的要因、生物学的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられており、痩せたいと思う理由も人により様々です。一例を示しましょう。
架空症例
高校2年生のAさんは、運動部の副部長を務め、後輩の面倒見も良く慕われています。
体型について言及した友人の些細な一言が気になってダイエットを決意。カロリーを制限した食事を始めます。一度決めたルールをきっちりこなす真面目な性格もあり、1カ月で5kgダイエットに成功。
周りの友達も、Aさんの変化に驚きと称賛の声を贈ってくれました。久々に会った叔母からも“きれいになったね”と言ってもらえ、なんだか、今までとは違う新しい自分になれた気がしました。
「もっと痩せたい」と思い、Aさんは食事制限を継続していきました。しかし、ある日、ふと家にあったスナック菓子が気になり、“一口”と思って口に入れました。一口入れると、そのおいしさに酔って、何も考えられなくなり、一袋をあっという間に完食。まだ、食べ足りない感じがして、家の中にあるすぐにつまめるものを探し始めました。“これ以上食べたら太る”と言う考えも頭をよぎりましたが、そのような心の声は、お菓子を口に入れるとあっという間に消え、食べ物を口に運ぶ手を止めることができません。
気が付くと、家にあるお菓子をほぼ食べ尽くしていました。我に返って、Aさんは激しい後悔に襲われました。“このままでは太ってしまう”“また、体型を指摘されるような自分に戻りたくない”。迷った挙句、トイレにこもって、さっきまで食べたものを吐き出すことにしました。幸い、家族は出かけていて居ませんでした。
これはあくまで一例です。“幼少期に体型を理由にからかわれた”“容姿をネタにいじめられた”などのマイナス体験、家族との不仲や両親からの過度な期待などの環境要因、繊細で人との付き合いに気を使い過ぎる性格など、様々な要因がみられます。
上の図をご覧ください。これは、摂食障害に見られる悪循環を示しています。
一連の行動は、チェーンと呼ばれ、1つスイッチが入るとんどん鎖のように繋がって進んで行ってしまいます(日本行動療法学会で過食の行動分析について論文を上梓しました)。
だから、最初のスイッチを入れないためにどうするかがポイントになります。
このような一連のプロセスを何度も繰り返す中で、摂食障害は深まっていきます。
上記のAさんの例は、この悪循環の入り始めていることが分かります。
摂食障害の患者さんに見られる特徴
先ほどお伝えした通り、摂食障害には様々な背景が複雑に絡み合っています。が、摂食障害の患者さんには共通して見られる特徴もあります。
心理面の特徴
- やせ願望、体重への“強いこだわり(強迫性)”
- 低い自己評価と高い理想 本当の自分を見せたら相手に見捨てられる
- 抑うつ、怒り、不安が貯まって過食のエネルギーになる。
- 完璧主義(白黒思考)0か100かで考える傾向
等がみられます。
対人関係の特徴 内面に抱える矛盾・ヤマアラシのジレンマ
自分の本音を話すことが苦手(嫌われたくない、いい人でいたい、対立したくない)で、相手の顔色をうかがい合わせる。「悪い感情を出してはいけない」と考えていたり、出し方が分からなかったりする方が多いです。
表面的には感じよく振る舞えますが、自分に自信がなく、自分をさらけ出すような親密な関係には強い恐怖心・不安を感じて人と距離を置きます。理解してもらえないのは、さびしい。かといって親しくなると、それも怖い、まさにヤマアラシのジレンマ状態です。
自分の「良い人」という殻に閉じこもりがちですが、自分の核となる部分は柔らかく繊細で、他人から影響を受けやすいのです。他者からの影響を受けることを恐れていることも他者と距離をとる理由です。しかし、同時に強烈な孤立感を感じています。
過食症(過食嘔吐症)の二面性(パラドックス)
摂食障害には様々な二面性がみられます。様々な面をひっくるめて、「すべてが自分」と言う感覚を持ちづらく、
いい自分の状態と悪い自分の状態が、ハッキリ別れます。
以下にその例を示します。
つらい気持ちから解放されている時間(過食/バラ色の自分)↔罪悪感や無力感に捕らわれた時間(普段の生活/灰色の自分)
摂食障害の方は、気持ちを他人に話せない反動で、心の中に様々なネガティブな感情がマグマのように貯まってきます。過食、過食嘔吐のエルギーとなり、火山のように爆発します。
「自分はこのままでいいのだろうか(不安)」/「もう何もする気になれない(無気力)」/「なんでこんな風になってしまったのだろう(悲しみ)」/「自分がいる意味を感じない(虚しさ)」/「今の苦しみはあいつのせいだ(怒り)と怒る自分は悪い人間だ(罪悪感)」/「自分を理解してくれる人はいない(孤独)」/「自分はもうどうしようもない(絶望)」などです。
その背景には、挫折体験、対人関係の問題、自分の容姿への囚われ、うつ病などの精神疾患などが想定されます。
そして、そのようなとてもつらい状態は、過食をしている時や、やせるための努力をしている時には感じなくて済むのです。そのようにして、つらい気持ちから自分を守っているとも言えます。しかし、そのことが後悔や罪悪感となり→また過食や痩せる努力に繰り返され…。とこの悪循環をにはまり、行動が強化されます。
このように、つらい状態の自分とそれを忘れている時の自分がはっきりと分かれています。はっきりと分かれているからこそ、過食、食べ吐きや拒食のコントロールは難しいのです。
摂食障害の自分↔治りたい自分
摂食障害の方の中には、自分の生活スタイルのせいでいろんな事が出来なくなっていることや、周りの人との関係にも影響が出ていることに気が付き、治療を希望される方もおられます。
しかし、その場合でも、「治したい」気持ちと「このままの状態を維持したい」気持ちの両方の気持ちを持っており、そのせいで身動きが取れなくなってしまうこともあります。
あらたまこころのクリニックに初診の方で、治療の話をさせて頂いたら、患者様が「治ってしまったら困る」「治るのが怖い」と話されたことがあります。
これはとてもすごいことです。心の中で思っていても口にするのは勇気が要ること。「よくぞ話して頂いた」と称賛の気持ちが思わず口から出てきました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は、症例も参照しながら、摂食障害の悪循環のメカニズム、心理的特徴などについてみていきました。
摂食障害は、社会・文化的要因、心理的要因、生物学的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。①生物痩せた女性は美しいという価値観(社会・文化的要因)をもとにダイエットを始め、②持ち前の我慢強さ(心理的要因)で食事制限を成功させるも、③飢餓感にかなわず過食をしてしまい、それを打ち消すために嘔吐し、④“カロリーコントロール→過食→嘔吐”がパターン化する(生物学的要因)、などはその一例でしょう。
摂食障害の方々のこころの中には様々な二面性がみられ、その二面がはっきりと分かれてしまっています。“日々の辛くてみじめな自分”と“それらから解放されている自分”がはっきりと分かれています。その2つを自動的に行き来しているため、コントロールが難しいのです。
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監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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