そもそも発達障害って何?
【目次】
発達障害ってなに?
発達障害の原因は?
二次障害に要注意
一見、発達障害に見える別の疾患も存在する
おわりに
はじめに
発達障害という言葉が、世の中に広く知られるようになりました。精神科臨床に携わっていると、「発達障害と健常者(定型発達)の境界はあいまい」「あなたの身近にもいる、大人の発達障害」「私もそうかも、大人の発達障害」など、発達障害という言葉が私たちにとって、身近なものであることを示す標語も良く目にしますが、その詳細については、ぼんやりとしたイメージのみが広がっているように思われます。
今回は、知っているようで意外と知らない発達障害の特徴・原因・診断・治療などについてお伝えしようと思います。
発達障害って何?
定義
発達障害はDSM-5(精神疾患の診断と分類の手引き)においては、以下のように記されています。
「発達期に発症する一群の疾患である。この障害は典型的には発達早期、しばしば小中学校入学前から明らかとなり、個人的、社会的、学業、または職業における機能の障害を引き起こす発達の欠陥により特徴づけられる。発達の欠陥の範囲は、学習または実行機能の制御といった非常に特異的で限られたものから、社会技能または知能の全般的な障害まで多岐にわたる。」
以下に簡単にまとめますと、
- 発達障害は幼少期より一貫してみられる特徴である
- その特徴により、生活上に困難を生じている
- その特徴は非常に様々な形で現れ、一人一人によって異なる
といった感じでしょうか。
診断分類
前述した通り、個人に現れる発達障害の特徴には、かなり個人差やグラデーションがあります。が、目立つ特徴によっていくつかのグループに分けることが出来ます。①ASD(自閉スペクトラム障害)②ADHD(注意欠陥多動性障害)③LD(限局性学習障害)④知的障害などです。なお、これらの特徴が重複して存在する場合もあります。
自閉スペクトラム症 杓子定規で臨機応変な人間関係が苦手
「こだわりの強さ」「コミュニケーションの苦手さ」が特徴です。具体的には、場の空気が読めない、表情やしぐさなどの言外のコミュニケーションがわからない、独特の言葉遣いをする、人に対して一方的なかかわり方をする、興味の範囲が狭い、手順やルールにこだわるなどの形で現れます。感覚の過敏さ、記憶力の高さなどを示すこともあります。有病率は人口の約1%と言われています。中には、こだわりの強さ、狭い範囲への興味、鋭い感覚、高い記憶力などを、さまざまな分野で活かしている人達もいます。
ADHD ぼーっとしてミスが多い、エネルギッシュだけどそそっかしい
「不注意」と「多動、衝動性」が特徴です。具体的には、うっかりミスが多い、忘れ物をよくする、気が散りやすい、じっと座っていられない、思い付きでしゃべるなどの形で現れます。有病率は人口の約5%と言われています。多動/衝動性は、エネルギッシュさや行動力の裏返しであり、様々な分野で活躍している人達の中にADHDの特性を持つ人がいます。
LD学習障害 知的に問題がないが、読み・書き・計算の一部だけが極端に苦手
読み・書き・計算が苦手です。ひとつだけのこともあれば、複数のこともあります。有病率は人口の5-10%と言われています。
発達障害の原因は?
親の養育態度が原因ではない
自閉症の概念が提唱された当初、「自閉症児の母親は冷淡で愛情に欠ける」(冷蔵庫マザー)と言われ、親の養育態度が原因と考えられていた時代がありました。が、この考えはのちに撤回されています。決して親の養育のせいでありません。ASDやADHDの原因はまだ完全に特定されていません。
二次障害に要注意
いじめや虐待などのつらい体験によって、後々に様々な精神症状を呈することがわかっています。呈する症状が多彩で、「パーソナリティ障害」「複雑性PTSD」「愛着障害」など様々な疾病分類が存在しますが、これらの背後にいじめや虐待のようなつらい体験が隠れていることがあります。そして、これらの症状が一見、発達障害のように見えることもあります。
自閉スペクトラム症ASDやADHDを持った子供は、いじめや虐待の被害にあいやすく、発達障害と上記の障害(二次障害)の重複が見られ、その区別が非常に難しいケースも存在します。発達障害治療(療育)のポイントは「二次障害をいかに起こさないか」であるとおっしゃる先生もいます。
大人の発達障害では、重ね着症候群という言葉も注目されています。
一見、発達障害に見える別の疾患も存在する
愛着障害は発達障害とよく似た行動を見せる
虐待などが原因で、養育者との間に、温かく安心した交流パターンを学ぶことが出来なかった際に起こる「愛着障害」は発達障害とよく似た行動パターンを示します。ほとんど他者と交流を持とうとしない「反応性愛着障害」は自閉スペクトラム症ASDと、だれとでも馴れ馴れしく接しようとする「脱抑制型対人交流障害」はADHDとの見分けが難しいことが指摘されています。
高次脳機能障害にも要注意
高次脳機能障害により、後天的に発達障害様の状態が見られることもあります。高次脳機能障害とは、“脳症・脳外傷・脳卒中”が原因で起こる脳の障害です。子供の頃には、脳症と脳外傷が良く見られます。つまり、高熱が出たり、頭をぶつけたりすることによって、発達障害のような症状が現れることがあります。子どもの高熱や頭部外傷には注意が必要です。
おわりに
今回は、発達障害の概念と原因について見ていきました。
発達障害については、まだわからないことも多いこと。また、一人一人によってその特徴が異なること。育ちの中で虐待やいじめを受けることで似たような状態像を呈すること。などから、発達障害の理解は非常に複雑で重層的であることをお伝え出来たのではないでしょうか。
関連する情報
監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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