不眠症と高齢者 年をとると眠れなくなるの?
【目次】
不眠と年齢 年をとると眠れなくなるの?
不眠のかんちがい 高齢者の最適な睡眠時間を知ろう
不眠と高齢者
不眠が高齢者にとってリスクになる?
不眠に対処するには
不眠と認知症
おわりに
はじめに
前回の記事(わかりやすい不眠症治療入門)では、不眠症のタイプ・メカニズム・リスク・治療などについてお伝えしました。今回は、不眠症の中でも、高齢者の方々に見られる不眠についてお伝えします。
不眠と年齢 年をとると眠れなくなるの?
年齢とともに睡眠は変化します。
健康な高齢者の方でも睡眠が浅くなり、中途覚醒や早朝覚醒が増加します。8時間ぐっすり眠れるのはせいぜい10代〜20代まで。10年で10分ずつ短くなり、60代では6時間半ほどになり、80代になると平均睡眠時間は6時間を切ります。
これは血圧・体温・ホルモン分泌などの生体機能リズムが前倒しになるためです。「年を取ってから、起きるのが早くなった」は自然なことですので、気にせずに床から出て、ちょっとした楽しみに朝の時間を使ってしまいましょう。
また、眠りが浅くなりちょっとした物音などの刺激で目が覚めるようになります。
不眠のかんちがい 高齢者の適切な睡眠時間を知ろう
65歳以上の適切な睡眠時間は6時間とされています。意外と短いのです。「長い時間眠ろうと必要以上に寝床についていると、寝付くまでの時間が伸びるなどして、熟睡感が得られない恐れがある」と呼びかけられています。
無理に寝ようとせず、眠くなってから寝床に入ることが大切です。
年代 | 適切な睡眠時間 |
10代前半まで | 8時間以上 |
25歳 | 7時間 |
45歳 | 6時間半 |
65歳 | 6時間 |
(https://www.otsuka.co.jp/suimin/column02.htmlより)
とはいえ、この数字はあくまで“平均”の話です。これより少ない・もしくは多い睡眠時間で生き生きと生活されている高齢者の方もいらっしゃるでしょう。適切な睡眠時間には個人差があるのも事実です。「ナポレオンは3時間。アインシュタインは10時間以上。」という話もありますね。
「適切な睡眠時間は人によりけり、日中の眠気で困らなければOK」というのが専門家の見解です。
一番の問題は、「若いころのように眠れない」「65歳以上は6時間眠るのが良い」と、睡眠時間にこだわって、眠れないのに寝床で悶々としたり、「眠れない、眠れない」と眠れないことを気にするあまり余計眠れなくなったりすることです。
不眠と高齢者
以上のような要因から、睡眠時間が短くなり、眠りが浅くなることに加えて、心身が不調にもなりやすく、「高齢者は不眠になりやすい」といえます。以下に不眠症に関わる問題を挙げます。
身体機能の低下
トイレが近くなる・体の痛み、など、身体機能の低下により、睡眠を妨げる刺激が増えることで不眠になりやすくなります。
薬の副作用
加齢とともにお薬を服用することが多くなり、その副作用によって、不眠が引き起こされる場合があります。また、カフェインなどの刺激物に敏感になり、眠れなくなることもあります。
生活の変化
高齢期は、退職・死別・独居など、人生上の大きな変化が次々と起こり、心理的な負荷がかかる時期です。そのようなストレスが不眠を引き起こしたり、うつ病などの精神疾患によって二次的に不眠になったりします。また、退職後にメリハリが少なく、運動量も低下した生活になった場合は、睡眠の質が低下して、不眠になりやすくなります。
身体性の睡眠障害
睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグス症候群・周期性四肢運動障害・レム睡眠行動障害などは専門施設での検査と診断が必要です。
不眠が高齢者にとってリスクになる?
前回もお話ししたように、不眠症が慢性化すると、うつ病(2倍)・高血圧(2倍)・糖尿病(2-3倍)などのリスクが高まるという報告があります。
加えて、高齢者の不眠で特筆すべきは、認知症のリスクが高まることです。
国立長寿医療研究センターの研究チームは、夜更かしをする75歳以上の人は、認知症発症のリスクが高まるとの研究結果をまとめました。75歳未満では特に差はなかったものの、75歳以上の場合、午後9時~11時に寝る人に比べて、午後11時以降に寝る人の認知症発症リスクは約1.83倍も高いことがわかりました。75歳以上の場合、夜更かしをせずに11時前に就寝することが、認知症予防につながると言えるでしょう。
睡眠と認知症の関係で分かっていることは、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβという物質が“ノンレム睡眠中に脳内からの排出が活発に行われる”ということです。つまり睡眠不足によって、認知症の原因物質の排出が滞ってしまうのです。
不眠に対処するには?
今回は、高齢者の方々の不眠症への対処のポイントを2つお伝えします。
①お昼に日光を浴び、日中の活動量を増やす
日中は外に出て活動し、太陽の光を浴びましょう。そして、体を動かしたり、人と会ったりして、心地よい疲れを得ましょう。そうすることで、昼と夜のメリハリがつき、自然と眠れるようになります。
また、昼寝は3時までに20~30分にします。それ以上の昼寝は、夜間にぐっすり眠れなくなります。
②眠気がないときは寝床に入らない
寝床には眠くなってから入ります。それまでは、家族との団らんや趣味の時間を過ごします。照明はあまり明るくしすぎず、PCやスマホなどの電子機器の光もできるだけ浴びないようにします。もし、床の中にいて眠れないようなら一度床から出ましょう。
不眠と認知症
不眠と認知症に関連した症状
アルツハイマー病などの認知症の方では、さらに睡眠が浅くなり、さまざまな睡眠問題がみられるようになります。
重度の認知症の方では1時間以上継続して眠ることすら難しくなります。
その他にも、昼夜逆転・しっかりと目が覚めきれずもうろう状態になる「せん妄」・夕方から就床の時間帯に徘徊・焦燥・興奮・奇声などの異常行動が目立つ「日没症候群」など、睡眠・覚醒リズムの異常に関係した症状がみられます。
不眠によって認知症が進行することもあります。不眠によってアミロイドβなどの不良タンパクが脳内に溜まってしまうことなどが原因とされています。
認知症の不眠に対処するには?
認知症の不眠では、睡眠リズムの乱れがあり、ロゼレムなどのメラトニン作用薬が有効とされています。認知症高齢者は薬剤への反応性が過敏で、睡眠薬や鎮静薬、特にベンゾジアゼピン系睡眠導入剤を使いすぎると、強い眠気や誤嚥、転倒・骨折などによって、さらに介護が必要になってしまうこともあるので注意が必要です。ベルソムラ、デエビゴなどのオレキシン系睡眠薬などは、そういったリスクは少ないので良いのですが、うまく使うにはコツが必要になります。漢方薬では、抑肝散(よくかんさん)、酸棗仁湯(さんそうにんとう)などをうまく使うと効果があります。
厚生労働省(e-ヘルスネット)より引用した、認知症高齢者の睡眠を保つ10のポイントを以下に列挙いたします。
ポイントは
「なるべく日中に刺激を与えて覚醒させる」
「規則正しい日課で生活リズムを保つ」
「夜間睡眠の妨げになる原因をなくす」です。
- 就寝環境を整える(室温・照度)
- 午前中に日光を浴びる
- 入床・覚醒時刻を規則正しく整える
- 食事時刻を規則正しく整える
- 昼寝を避ける/日中にベッドを使用しない
- 決まった時刻に身体運動する(入床前の4時間以降は避ける)
- 夕刻以降に過剰の水分を摂取しない
- アルコール・カフェイン・ニコチンの摂取を避ける
- 痛みに充分対処する(気づかれていないことも多い)
- 認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害剤)の午後以降の服薬を避ける
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は、高齢者の方々の睡眠についてお伝えしました。
高齢者の方々は睡眠に関する問題を抱えやすく、また、不眠が生活習慣病や認知症などの問題の入り口になっていることがお分かりになられたと思います。
少しでも睡眠に関して気になることがあれば、医師にご相談いただきますよう、お勧めいたします。
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<不眠症についての記事はこちら>
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関連する情報
監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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