睡眠日誌と睡眠衛生教育-不眠の治療プログラム③
【目次】
睡眠日誌
睡眠環境調整
まとめ
はじめに
不眠症の治療プログラムのシリーズ第三弾です。
前回は、治療プログラムの4本柱である、睡眠日誌・睡眠衛生教育・刺激コントロール・睡眠制限法の概略についてお伝えしました。
今回は、その中でも睡眠日誌と睡眠衛生教育の詳細についてお伝えいたします。
記録のつけ方
このプログラムでは、毎朝、睡眠の記録を付けます。このデータが治療のスタートラインであり、ゴールでもあるので、必要不可欠なものです。
入床時間・起床時間・寝付くまでにかかった時間・中途覚醒の回数・途中で起きていた時間・飲酒の有無・朝の気分・睡眠の質・昼寝の有無を記録していきます。
なぜ毎日、それも朝に記録しなければならないのでしょうか。
4つの大切な理由があります。
- 睡眠の状態を客観的に見ることができる。毎朝つけることで正確なデータを記録できる。
- 起きた時間、寝た時間、睡眠の質など、睡眠状態を総合的に評価することができる。
- このデータをもとに治療を組み立てていく。治療中は成果を確かめるデータにもなる。
- 日誌を作ること自体にも、睡眠の質を改善させる効果がある。
記録は、治療のためのデータを作る作業です。毎朝しっかり行ってください。
記録をつけるときのコツ
次に、多くの人がぶつかるであろう疑問をまとめました。
時計は見ない
多くの人は、夜中の時間経過を感覚で正確に把握しています。なので、夜中に目覚めたりしたときにいちいち時計を見ないようにしてください。記録も、大体の感覚で記入すればOKです。
目覚めている状態の基準
起きているか寝ているか、微妙な状態のときは、感覚的にどちらか選んでください。基準としましては、「起きようと思ったらすぐに起きられる状態」であれば、目覚めていたとみなして記録してください。
昼寝の基準
横になっているだけなら記録しません。寝ていたか寝ていないかあいまいな状態のときは、眠っていたとして記録します。
睡眠効率の算出
記録したデータをもとに、①寝床に入っていた時間の合計、②実際に眠っていた時間の合計、③睡眠効率を算出します。
データの使い方は、次回、お伝えします。次は、睡眠環境の調整です。
睡眠環境調整
記録もつけて、データも取れて、「いざ、実践!!」と行きたいとこですが、その前に、まずは、現在の睡眠環境を整えていくところから始めましょう。本格的な運動の前には体をほぐす必要があるように、まず、睡眠のための環境や体調を整えておくことが、この後の治療の効果を高めるためには必要でしょう。
睡眠環境のチェック
以下の項目に3件法(はい・いいえ・どちらとも言えない)でチェックしていき、現在の睡眠環境を振り返ります。
睡眠衛生教育
次に、質の良い睡眠を得るための正しい知識を学んでいただきます。以下のことをご説明していきます。
①睡眠時間は人それぞれ、翌日に眠気で困らなければ良い
②定期的に運動しよう
③寝室を快適にして、光や音が入らないように
④寝ている間は、寝室を快適な温度に保とう
⑤空きっ腹で寝ない。寝る前に水分を取りすぎない。
⑥カフェインを午後3時以降に摂らないように
⑦寝る2時間前や夜中にアルコールは摂らない
⑧寝る二時間目や夜中に喫煙を避ける
⑨昼間の悩みを寝床に持ち込まない
⑩眠ろうと頑張らない。夜中に時計は見ない。
睡眠環境を具体的に整えていく
チェックリストの「いいえ」がついている項目について、直したほうがよさそうな項目をリストアップしましょう。そして、睡眠衛生教育をもとに改善策を考えます。
どのような改善策が出ましたか?例えば、明け方部屋が明るくなるなら、アイマスクを買うのもいいでしょう。私の場合は、新聞配達のバイク音で目が覚めてしまうことがよくあるので、耳栓を購入しようかと考えています。このように、浮かんだ改善策の中から1-3個ほど、すぐにできそうなものを選びましょう。そして、睡眠日誌の一番下、「ほかに改善したい環境・習慣」に書き入れ、達成度を〇△×で判定します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、睡眠日誌の書き方と睡眠環境の整え方についてお伝えしました。
睡眠日誌では、毎朝、睡眠の記録をつけていきます。入床時間・起床時間・寝付くまでにかかった時間・中途覚醒の回数など、睡眠の全体像を数値化することで、治療のために必要なデータ集めたり、治療の効果を測定したりします。このデータが治療のスタートラインとなります。毎朝、正確な記録を心がけましょう。
睡眠衛生教育では、質の良い睡眠を得るための知識を学び、自身の睡眠環境を確認します。そして、できるところから少しずつ、睡眠環境を改善していきます。これから行う、刺激コントロールや睡眠制限法によって、「質の良い睡眠をとる癖」をつけていくわけですが、睡眠環境を整えることなしに、この2つの治療は成り立たないといってよいでしょう。
次回は、治療プログラムの最も重要な、刺激コントロールと睡眠制限法についてお伝えします。
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<不眠症についての記事はこちら>
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関連する情報
監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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