不眠の治療の概略-不眠の治療プログラム②
【目次】
不眠症治療プログラムにおける4本の柱
- 睡眠日誌
- 睡眠環境調整
- 刺激コントロール
- 睡眠制限法
不眠症の成り立ち
不眠症を刺激コントロールと睡眠制限法で持続因子を断つ
まとめ
はじめに
あらたまこころのクリニックで行っている、不眠症への治療プログラム(行動療法)をご説明する記事の第二弾です。
不眠があれば,何でも「ハイ、睡眠薬を処方しておきますね」ではなくて、不眠症の成り立ちは、一人ひとり違いますので、あなたの不眠の成り立ちや解消法を,客観的な医学データに基づいた方法で見直してみることが大事です。
今回は、不眠症治療プログラムの4本の柱についてお話しし、不眠の成り立ちを見ながら、4本の柱が効果的な理由についてお伝えします。
不眠症治療プログラムにおける4本の柱
①睡眠日誌
毎朝、記録をつける。
このプログラムでは、毎朝、昨晩の睡眠について日記に記録していきます。
毎朝つけることがとても大切です。
寝床に入る時間・寝床から出た時間、布団の中に入っていた時間、実際に眠れていた時間から、などを記録していきます。
この記録は、治療目標の設定や治療効果の測定のための貴重なデータとなります。
②睡眠環境調整
睡眠環境をチェックして睡眠衛生を知る。
今の睡眠環境に問題があるため、不眠が続くことがあります。その悪循環を把握するために、チェックリストで確かめていきます。。
質の良い睡眠のために必要な生活習慣についてレクチャーを受けます。
睡眠の3時間前から何をしていたか?チェックすることも大事です。
この2つを通して、不眠解消に向けた、寝床の整備や生活習慣の改善に取り組んでいきます。
③刺激コントロール
寝床は寝る以外には使わない。
具体的には以下の3つを忠実に実践していきます。
- 寝床では、睡眠以外の行為をしない
- 途中で15分以上目が覚めてしまったら、寝床を出る
- 寝床に戻るのは眠くなった時だけ
これによって、「条件付け」を断ちます(後述)。
目が覚めたら、別の部屋で眠くなるまで静かに過ごしましょう
④睡眠制限法
寝る時間を決める
具体的には以下の4つを忠実に実践していきます。
- 寝床の中にいる時間を決める(平均睡眠時間+30分)
- 起床時間を決める
- 1と2から逆算して寝床に入る時間を決める
- 睡眠効率が85%以上になったら、入床時間を30分早める
これによって、「寝床に長時間過ごしているいること」を断ちます(後述)。
不眠の成り立ち
不眠の3つの要素と不眠度
上の図をご覧ください。不眠には3つの要素があります。①素質的要因②促進的要因③持続的要因です。そして、その3つを合計したものが不眠度になります。それぞれについてみていきましょう。
①素質的要因
体質や性格などその人がもともと持っている不眠のなりやすさや環境要因のことです。不安になりやすい、考え込みやすい、親族が不眠症などです。
②促進的要因
不眠症になる直前からこの促進的要因が高まります(亜急性期)。たとえば、ケガや病気が悪化した、試験が近づいているなど、身体的・心理的に大きなストレス源となる出来事です。子供が生まれた・引っ越し先での騒音トラブルなど、環境の変化も大きな促進的要因になりえます。これらは一過性のストレスなので、長くは続きません。ところが、何とか無理に寝ようとして、寝酒や昼寝、寝床の中でスマホを見るなどの、「何とか寝よう」とする行動が、持続因子となり本当の不眠症に進んで行きます。時間が経ち、試験やストレスとなるできごとが過ぎ、促進因子がなくなっても、この持続因子が残っていて、不眠症が続く最も大きな原因になります。
③持続的要因
この持続的要因が不眠の大きな原因となります(慢性期)。例えば、眠るためにお酒を飲む習慣ができる、早く寝床に入って本を読む習慣ができる、眠れないので寝床でスマホを見る習慣ができる、など、最初の不眠を何とかしようとしてきた習慣が、さらに強い不眠を引き起こしていることがあります。プログラムではこの持続的要因を取り除いていくことが不眠症の治療では重要になります。
原発性不眠の治療は、持続因子を取り除くことになります。
上の図をご覧ください。これは、不眠症の前駆期・急性期・慢性期・治療後の不眠度を表したグラフです。
ここで大切なのは、原発性不眠が慢性的に続く時期(慢性期)には、維持因子が大きく影響しているということです。
先ほどご説明した通り、
不眠度=準備因子+誘発因子+維持因子
となります。そして、その不眠度がある一定を超えると、不眠の症状が現れます。
なので、原発性不眠の治療では、維持因子を取り除くことを目指していくわけです。
持続要因はなぜ不眠を維持するのか?
理由は、①寝床に長時間いるから、②寝床は寝る以外に使うとよくないからの2つです。詳しく見ていきましょう。
①寝床に長時間いる
寝床に長時間いても、それほど休まりませんし、「寝なきゃなあ」と気持ちばかり焦って、睡眠の質も低下します。
②寝床は寝る以外に使うとよくない
寝床で、本を読んだり、スマホを触ったり、考え事をしたりするのは何がいけないのでしょうか?
これは、「古典的条件付け」という心理学の理論で説明ができます。パブロフの犬をご存じでしょうか?犬に餌を見せると勝手に唾液が出ます。この時餌と一緒に鈴を鳴らすことを繰り返します。すると、今度は鈴を鳴らすだけで勝手に唾液が出るのです。
寝床で本を読んだり、スマホを触ったり、考え事をしたりすると、同じことが起こります。寝床に入るだけで、「読書モード」「スマホモード」「考え事モード」に入って目が醒めてしまうというわけですね。
つまり、寝床に入ると、本当は早く寝たいのに目が覚めてしまい、悶々と朝まで過ごすことになりつらくなります。そうなると、布団や寝室に入るのが,怖いという人もおられます。寝室恐怖、ふとん恐怖など不眠恐怖です。
刺激コントロールと睡眠制限法で持続因子を断つ
①寝床に長時間いる、②寝床は寝る以外に使うとよくない、この二つの習慣を断つのが、先ほどお伝えした、刺激コントロールと睡眠制限法です。
刺激コントロール
刺激コントロールでは、①寝床では、睡眠以外の行為をしない、②途中で15分以上目が覚めてしまったら、寝床を出る、③寝床に戻るのは眠くなった時だけ、の3つを実行します。こうすることで、寝床では“寝る”以外の行為を一切しない状況が出来上がります。
つまり、寝床と「睡眠モード」を条件づけるというわけです。
睡眠制限法
睡眠制限法では、寝床にいる時間を設定します(平均睡眠時間+30分)。この計算で行くと、不眠症の方は寝床にいる時間が短くなります。たとえ、夜眠くなっても、決めた時刻の前なら、寝床に入ってはいけません。その目的は疲れ(眠気)を貯めることです。眠気をガマンして,貯めて貯めて、入床時刻になったら、ドンと寝ると深い睡眠に入ることができます。ダムが水をためて,一気に放水するようなものです。始めは、寝不足で眠いですが、決まったスケジュールを繰り返すことで、夜の睡眠の質が良くなります。昼は、スッキリと活動的になり、夜は良い疲れで眠くなるという生体リズムの好循環ができ、決まった時間に眠くなるようになります。
つまり、「寝床に不用に長くいて質の低い睡眠になっている状態」を解消できるわけです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、不眠のなりたち(不眠度=素質的要因+促進的要因+持続的要因)について説明しながら、4本の柱が不眠の治療に効果的な理由についてお話ししました。
- 睡眠日誌→治療を始めるためのデータ収集・治療の進捗をみるバロメーター
- 睡眠環境調整→治療に向けて、寝床環境や生活習慣を整える
- 刺激コントロール→「眠くなったら、寝床に入る」で「条件付け」を断つ
- 睡眠制限法→「寝床に長時間いる」を断つ
でしたね。次回は、睡眠日誌について詳しく解説していきます。
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<不眠症についての記事はこちら>
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監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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