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コロナウイルスによって進んだ新しい精神科医療のかたち/コロナウイルスと依存症リスク~大野裕先生の講義を受講しました~

コロナウイルスによって進んだ新しい精神科医療のかたち/コロナウイルスと依存症リスク~大野裕先生の講義を受講しました~

【目次】
新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大によって進んだ、新しい精神科医療のかたち
新型コロナウイルスCOVID-19の感染拡大に伴う依存症リスク
まとめ

はじめに

2020年7月22日(水)に、webセミナー、「コロナウイルスCOVID-19とこころの健康(講師:大野裕先生)」をスタッフ一同で受講しました。

前回の記事(リンク)では、コロナウイルスCOVID-19の感染拡大によって生じたMental Health Pandemicに認知行動療法的な視点から対処する方法をお伝えしました。

今回は、AIやインターネットを使った「新しい精神科医療のかたち」についてお伝えいたします。

新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大によって進んだ、新しい精神科医療のかたち

 感染拡大下で、皆様の周りでも会議やセミナーにZOOMが急速に利用され始めたことは、記憶に新しいと思います。精神科治療の世界にも、その波はやってきています。

AIポッドによる相談

アメリカでは、認知行動療法を提供するチャットボット、Woebot(スタンフォード大学)の普及が進んでいます(詳しくはこちら)。チャットポッドは24時間対応でき、低コストである点、ロボットゆえに利用者が自由に自分のことを打ち明けることが出来やすい点(イーブンで人からジャッジされる心配がない為)、などで優れており、治療効果も研究で実証されているそうです。これからは、AIによるこころの治療が普及していくのかもしれません。

現在、大野先生が監修された、ストレス対策チャットポッド「こころコンディショナー」のパイロット版が無料公開中です。相談モードと雑談モードという二つのモードでポッドとやり取りを進めていくことで、利用者の話を蓄積し、振り返ってくれます。興味のある方は、こちらをご参照ください。

遠隔診療

慶応大学の先生方のグループで、インターネットを利用した遠隔診療(iCBT)の取り組みも進んでいるそうです。

 

新型コロナウイルスCOVID-19の感染拡大に伴う依存症リスク

 ZOOM、Woebot、こころコンディショナー、遠隔診療(iCBT)など、外出や接触が制限されている現在、コンピューターやインターネットを利用した技術がとても有効に利用され始めました。

 その反面、SNSやオンラインゲーム、インターネットギャンブルなどのインターネット関連の過剰利用が増加して、問題利用や依存症に発展するリスクが高まっています。日本アルコール関連問題学会の発表を参照しながら、コロナウイルスCOVID-19の感染拡大に伴う依存症リスクとその対処について、お伝えいたします。

新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大で依存行動が増えるわけ

 感染拡大による様々な生活の変化が、人々のメンタルヘルスに影響を与えています。多くの人に当てはまる変化としては、外出制限・行動制限・社会経済情勢の悪化といったものが挙げられますし、前回の記事における、生存・人間関係・次世代の危機もこれに当てはまるでしょう。

 日常生活のストレス、不安、孤独などを紛らわせるために、インターネットの利用(ゲーム、動画、SNSなど)、飲酒量の増加、ギャンブル行動の増加などが報告されています。

 これらには依存性があるために、依存症や過剰使用の問題に発展する可能性が指摘されています。

予防策

 生活リズムや健康状態を整え、インターネットや飲酒以外の活動レパートリーを増やし、人とのつながりを大切にすることが予防につながります。具体的には、

  • 生活スケジュール(仕事、勉強、運動、社会活動など)を立てる。
  • 適切な睡眠と食事
  • 適度な運動
  • 自分に合ったリラックス法
  • 家族との充実した時間
  • 情報は信用できるところからに絞る
  • 情報を仕入れる回数や時間を決めて、それ以上は検索しない

などが挙げられます。日々の生活に出来るところから取り入れてみてください。

依存症や過剰使用の可能性があるもの

アルコール

経済不安や外出自粛の孤独感を紛らわせるために飲酒量が増加することが懸念されます。以下のポイントに気を付けて、過剰な飲酒を予防しましょう。

  1. 節度ある飲酒は純アルコール換算で1日20g(ビールロング缶1本・日本酒1合・焼酎ロック1杯など)
  2. 男性40g女性20g(アルコール換算)を超える飲酒は生活習慣病のリスクを高める
  3. 今まで飲んでいなかった人が、この機に飲酒を始めるのは控える
  4. 日中の飲酒は避ける
  5. アルコールの分解速度は一時間に4g。翌日の運転時にアルコールが残らない量を計算する。
ギャンブル

経済不安やストレスにさらされている状況はギャンブル欲求を高めることがわかっています。加えて、在宅時間が増えることで、オンラインギャンブルがいつでもできる状況に置かれ、特別給付金という軍資金まであります。現在は、ギャンブル欲求を非常に高めやすい社会情勢といえます。以下のポイントに気を付けて、ギャンブルを問題化させないようにしましょう。

  1. パソコンに向かう際は時間に注意して適度に休憩を入れる
  2. オフラインの活動とゲームの時間のバランスを心がける
  3. ギャンブル以外の楽しみを作る
  4. 社会的なつながりを作る
  5. SNSには前向きで希望のあるストーリーを投稿する
  6. 困っている人を助ける
インターネット

外出制限によって手持ち無沙汰になってついスマホに手が伸び、インターネットに触れる時間がどうしても増えてしまいます(筆者もついついやってしまいます)。が、インターネットも依存や過剰使用のリスクがあるツールです。以下の点に気を付けて、過剰使用につながらないようにしましょう。

  1. 総利用時間に気を付ける。ついついSNSなどをチェックしてしまいがちです。何気ない利用でも、合計すると結構な時間になっているかもしれません。また、ちょっと5分くらいのつもりが1時間になっている人は要注意です。
  2. 家族でインターネットの利用に関するルールを作る。
  3. 目覚まし時計やボードゲームなどアナログで代替できるものは積極的に利用する。
  4. こまめに連絡を取り合い、人とのつながりを保つ。
  5. ネットやゲームの過剰な利用に困ったときは、医療機関や精神保健福祉センターに相談する。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。今回は、大野裕先生のwebセミナーの中から、「新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大によって進んだ、新しい精神科医療のかたち」についてまとめました。

また、そのことに関連して、新型コロナウイルスCOVID-19による生活の変化が、依存症のリスクを高めることについて、日本アルコール関連問題学会の資料を基にお伝えしました。

 新型コロナウイルスCOVID-19の感染が拡大し、私たちの生活は大きく変わりました。

 その中で、AIやインターネットを利用した技術が、精神科の世界にも広がっていることを大野裕先生のwebセミナーを通して教えていただきました。

 医療の世界では、生物-心理-社会モデルを通して、患者様を全人的に診ていくことを理想としています。世の中の情勢と精神科の実践は密接につながっており、世の中の流れに沿った対応が求められることを、セミナーを通して感じました。今後も、スタッフ一同、知識や技術の研鑽に励んでいきたいと思います。

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監修

加藤 正
加藤 正医療法人和心会 あらたまこころのクリニック 院長
【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。