カサンドラ症候群とは?症状や治療法、どのように向き合うべきか対処法について解説
カサンドラ症候群を抱えている人は、家庭内で直面している問題について周りに相談ができなかったり、理解を得られず孤立した状況が続いていることが少なくありません。カサンドラ症候群の根本的な解決には、ASDのパートナーとの関係性の改善が必要です。この記事では、カサンドラ症候群やASDのパートナーとどのように向き合うべきか、治療法や対処法を解説します。
カサンドラ症候群とは
カサンドラ症候群とは、家族など身近な人が自閉スペクトラム症(ASD)であるためにコミュニケーション等がうまくいかず、心的ストレスによって心身に不調があらわれる状態です。カサンドラ症候群は医学的な疾患名ではないため明確な診断基準はありませんが、以下の3つの要素があるとされています。
- パートナーの少なくとも一人が、ASDの特性などによる共感性や情緒的表現に障害がある
- パートナーとの関係において感情的な交流の不足による対立関係、精神または身体の虐待、人間関係の不満がある
- 精神的もしくは身体的な不調の症状がある
カサンドラの名称の由来
「カサンドラ」とは、ギリシア神話に登場するトロイの王女の名前です。太陽神アポロンより予言の力を授かりましたが、その力によりアポロンに捨てられるという未来を予知したためアポロンの愛を拒絶します。怒ったアポロンは「カサンドラの予言は誰からも信じてもらえない」という呪いをかけ、カサンドラは真実を知り伝えても人々から信じてもらえなかった、という話があります。
この「身近なパートナーとの関係性を周囲から理解してもらえない」境遇を重ねて、「カサンドラ症候群」と呼ばれるようになります。
カサンドラ症候群の原因
カサンドラ症候群を引き起こす原因は、ASDのあるパートナーや家族と意思疎通がうまくいかないストレスや、その苦しみが相手や周りの人になかなか理解されず孤独感を感じることにあると考えられています。特にASDの方が一定以上の社会適応性を身に着けている場合、プライベートな空間で起きるコミュニケーションの問題のため外側からは見えにくくなります。そのため当人の困りごとや苦しみが共有しづらく、問題を一人で抱えてしまいカサンドラ症候群を悪化させてしまうことがあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の特徴
カサンドラ症候群の発端となる自閉スペクトラム症(ASD)には、どのような特徴があるのでしょうか。大きく分けて以下の2つの特徴があります。
- 対人関係やコミュニケーションの困難さ
- 興味や関心の偏りや柔軟性の乏しさ
ASDの人は表面上は問題なく会話ができていても、相手の気持ちを考えたり場の空気を読むことに困難さがあり、意図せず不適切な表現を会話中に使ってしまうことがあります。また、興味を持ったことに時間を忘れるほど熱中したり、自分が決めたルールにこだわるなどの特徴があります。
ASDは発達障害のひとつですが、知的障害を伴わない場合には子どものころに症状があっても困りごとに至らず、診断を受けないまま大人になることが少なくありません。
カサンドラ症候群になりやすい人の特徴
カサンドラ症候群は男性より女性の方が割合が多いとされています。これはASDの発現が男性に多く、パートナーとなる女性側にカサンドラ症候群があらわれるためです。しかし、カサンドラ症候群は女性だけのものではなく、男性の発症例もあります。また、真面目で面倒見が良く、忍耐強いといった性格の人もカサンドラ症候群になりやすい傾向があります。ASDのパートナーとコミュニケーションにずれを感じても、怒るなどで発散せず我慢を続けることで、カサンドラ症候群へとつながるケースがあります。カサンドラ症候群になる要因はさまざまにあるため、性格だけでカサンドラ症候群になるというわけではありません。
カサンドラ症候群の症状
カサンドラ症候群は、心的ストレスから精神面や身体面にさまざまな症状があらわれている状態です。具体的な診断基準がないため「この症状があるとカサンドラ症候群」といった明確な基準はありませんが、精神面や身体面に以下のような症状がみられます。
精神面にあらわれる症状
カサンドラ症候群の主な精神症状には「不安感」や「抑うつ」、「パニック発作」などがあります。その他の症状には、以下のものがあります。
- 不安感
- 抑うつ
- パニック発作(突然の動悸やめまい、手足のふるえが起こる発作)
- 自己肯定感の低下
- 心的外傷後ストレス反応(PTSD)
- 無気力
- 情緒不安定
- 罪悪感
身体面にあらわれる症状
カサンドラ症候群の主な身体症状には「不眠」や「体重の増減」、「頭痛」などがあります。その他の症状には、以下のものがあります。
- 不眠
- 体重の増減
- 頭痛
- 倦怠感
- 動悸やめまい
カサンドラ症候群の治療
カサンドラ症候群によってあらわれる心身の症状は、薬物療法や認知行動療法といった精神療法の治療によって改善することができます。ただし、これらの治療は対処療法にしかならなりません。根本的な解決を目指すためにはASDのパートナーとの関係性の改善が必要です。
カサンドラ症候群の対処法
では具体的にASDのパートナーとの関係性を改善するためにはどうしたら良いのでしょうか。カサンドラ症候群の対処法について、以下の3つをご紹介します。
- ASDについて理解を深める
- 生活上のルールを決める
- 距離を置いたり第三者に相談できる場所をつくる
ASDについて理解を深める
まずはASDの特性について理解するように努めましょう。ASDのパートナーの苦手なことやこだわりを知ることで、コミュニケーションのずれが起こる原因や対策が分かることがあります。ただし、ASDを理解したからといって学んだことを無理に押し付けたり、ASDの自覚がない相手に受診を強要することはやめましょう。ASDの方は社会的に適応していることも多く、本人が特性に気づいていなかったり特に困っていない場合もあるため、反発によって関係性がこじれる可能性があります。
生活上のルールを決める
ASDの特性を理解したら、話し合いをしながらお互いの行動を理解して生活上のルールを決めると、円滑な生活を送りやすくなります。カサンドラ症候群になりやすい人は面倒見が良く、我慢強いといった傾向があるためASDのパートナーに干渉しすぎたり、相手に合わせすぎている場合があります。こうした今までの関わり方から見直し変えていくことが大切です。
距離を置いたり第三者に相談できる場所をつくる
相手への理解を深め、話し合いやルールを決めてもどうしても意思疎通がはかれない場合は、距離を置いてみることもひとつの手段です。住環境の変更や別居など、物理的な接触回数を減らしてみることで、互いに自立し関係性を変えるきっかけになることがあります。また、夫婦や家族だけで孤立してしまわないよう、友人や支援機関、医療関係者などを頼ることも大切です。第三者を交えて話し合うことで、ストレスの緩和や関係性の改善に有効な場合があります。
カサンドラ症候群に悩む方が利用できる相談先
カサンドラ症候群に悩み、パートナーとの話し合いや身近な人に相談をしても解決しない場合があります。カサンドラ症候群に辛さを抱えていたら、以下の専門機関に相談してみると良いでしょう。夫婦や家族だけで問題を抱え込まないことが大切です。
- 発達障害者支援センター
- 発達障害を扱う精神科・心療内科
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある方やその家族を対象に、日常生活のサポートなど総合的な支援を行っている専門機関です。まだ診断を受けていない、発達障害の可能性がある人の相談も対象になります。自治体によってサービスの内容は異なりますが、社会福祉士、公認心理師、臨床心理士など専門的なスタッフのアドバイスやサポートを受けることができます。
発達障害を扱う精神科・心療内科
発達障害を扱う精神科・心療内科を受診することも選択肢のひとつです。特に心身に不調があらわれている場合は、薬物治療などで症状を緩和させながらパートナーとの向き合い方を考えることができます。また、ASDの根本的な治療方法は今のところありませんが、専門スタッフとカウンセリングなどをしながらASDの特性とどのように付き合っていくかを学んでいくことができます。
まとめ
カサンドラ症候群は、家族など身近な人が自閉スペクトラム症(ASD)であるためにコミュニケーション等がうまくいかず、心身に不調があらわれる状態です。カサンドラ症候群は医学的な疾患名ではないため明確な診断基準はありませんが、心的ストレスによって抑うつやパニック、不眠や頭痛など、精神面や身体面にさまざまな症状があらわれます。
カサンドラ症候群の症状は薬物療法や精神療法などの治療によって改善することができますが、根本的な解決を目指すためにはASDのパートナーとの関係性の改善が必要です。
ASDの理解を深め、パートナーとの話し合いや身近な人に相談をしても解決しない場合があります。カサンドラ症候群に辛さを抱えていたら、発達障害者支援センターや発達障害を扱う精神科・心療内科などの専門機関に相談しましょう。自分や相手を責めすぎたり、夫婦や家族だけで問題を抱え込み孤立しないことが大切です。
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監修
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【出身校】名古屋市立大学医学部卒業
【保有資格】精神保健指定医/日本精神神経学会 専門医/日本精神神経学会 指導医/認知症サポート医
【所属】日本精神神経学会/日本うつ病学会/日本嗜癖行動学会理事/瑞穂区東部・西部いきいきセンター
【経歴】厚生労働省認知行動療法研修事業スーパーバイザー(指導者)の経験あり。2015年より瑞穂区東部・西部いきいきセンターに参加し、認知症初期支援集中チームで老人、高齢者のメンタル問題に対し活動を行っている。日本うつ病学会より「うつ病の薬の適正使用」のテーマで2019年度下田光造賞を受賞。
【当院について】名古屋市から、「日本精神神経学会から専門医のための研修施設」などに指定されている。
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