働く人の発達障害
DEVELOPMENTAL DISABILITYDEVELOPMENTAL DISABILITY
発達障害は、大人になってはじめて
発覚することもあります
成人のADHD(注意欠如・多動症)であるために、会社などにおいて自分では頑張っているのに上手くいかず、周りからは「ミスが多い」「努力が足りない」などと誤解され、それによって自信を失い、悩んでいる方が多くいます。この原因は、脳内で注意や感情をコントロールしている部分(前頭葉)が上手く働かず、①物事を計画通り実行できない、②じっくり待って作業をしてやり遂げることが苦手、③時間がどれくらいかかるか見積もることが苦手といった特徴があります。
ADHDは100年前から知られている病気です。近年になって医学や研究が進み、実態が分かってきたり、「DSM-5」という診断基準でまとめられ、新薬などが開発されています。そのため、あきらめずに治療や工夫を続け、社会資源を活用しながら暮らしていくことが大事です。
日本のある子供の調査では、自閉スペクトラム症と診断されている割合は2~5%、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されている割合は3〜5%ですが、大人になると約2%に減っており、ADHDの症状が成長とともに自然に減っていく場合があるということがわかっています。その反面、幼少期は保護者や周囲の人にフォローされて目立たなかった症状が、会社に勤め始めてから現れることで、「自分は仕事できない」、家庭では「自分はダメな主婦」など悩み、うつ病や不安障害、アルコール依存症などの二次障害が合併しやすいことも知られています。
これまでは「周りと何かが違う」「周りができることでも自分はできない」などと感じていた方が、テレビやインターネットで発達障害のことを知り、自分もその特徴に当てはまると思って治療を受ける方が増えています。会社に勤める上で「悪気はないのに人間関係を築けない」「努力しているのにケアレスミスが減らない」などの問題が続いている場合は、適切な診療を受けることが大切です。
こんなお悩み
ありませんか?
次のような症状は、
ADHDの可能性があります
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「自分はダメな人間だ」などと自己評価が低い
日常生活のルールを作ったり維持するのが苦手
整理整頓が苦手で部屋が片付かない
時間管理が苦手で約束を守れない
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物事を待つことが苦手
肥満または過食
計画を立てて、実行していくことが苦手
じっとしていられず、常にソワソワしている
当院での治療法 -TREATMENT-
ADHDは、心理社会的治療と薬物療法が有効です。心理士とのカウンセリングも役に立ちます。自分が苦手と感じるパターンを知り、それを補うためのコツと工夫を覚えて困りごとを解決していくことが治療の主となります。
自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害は、多くの場合、症状が低年齢の頃に発現するため、診断が比較的つきやすいのですが、大人になってからの発現では、幼少期の情報が少ないことと合併症が加わることで、厳密な診断が困難になることもあります。大人になるにつれ、不眠や社交不安障害(あがり症)、パニック障害、強迫性障害、うつ病、躁うつ病(双極性障害)などの合併症が加わることが多いため、発達障害とあわせて合併症の治療が必要です。特にうつ病は合併が多く、その治療にはADHDの特性を考慮した工夫が必要です。
ADHDの方は、子供の頃から何かを始めようと思っても時間をかけてじっくり取り組むことができないため、達成感が得られず、周囲の方に叱られた経験が多く、褒めてもらった経験が乏しいため、自己評価が低くなってしまいます。そのため、治療には「周りから認めてもらう」という体験が積めるか否かが大切です。
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薬物療法
薬物療法
ADHDは、薬物療法が(ある程度は)効果的なため、就労継続上どうしても必要と判断した場合に限り、医学的に安全であることを条件に、患者様と相談して、コンサータ、ビバンセといった脳刺激薬を処方することがあります。患者様が依存状態になっていないことや副作用の程度をしっかりと確認した上で処方します。アトモキセチン(ストラテラ)やインチュニブが有効な場合もあります。こういった薬剤を上手く取り入れることで、就労を継続されている患者様が多数います。
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精神療法
精神療法
発達障害という障害の特性を念頭に入れながら、会社や周りの方との付き合い方を工夫し、「その人らしさ」を尊重した暮らしができることを最優先します。心理士とのカウンセリングも役に立ちます。
また、当院では、福祉サービスを受けながら障害者枠での就労支援も勧めており、ハローワーク(障害者就労担当)や就労移行支援事業所、就労支援事業所などと連携しています。
ご家族・周囲の方へ -FAMILY-
大人の発達障害は、本人では気づきにくく、「ただ落ち着きがないだけ」と自分を責めてしまうことにより症状が悪化してしまうケースが少なくありません。また、周囲からも障害と認識されず、「ただ怠けているだけ」「故意的に失敗やトラブルを招いている」などの誤解にさらされ、辛い思いをしている患者様が多く存在します。うつ病など二次障害と呼ばれる合併症を防ぐことが大事です。
発達障害は、早期発見・早期対応によって症状を軽減することができるだけでなく、発達障害と付き合っていく意識を持って生活することが可能なため、身近なご家族や職場の同僚など、周囲の方が変化に気づいた場合は診療を促すことが大切です。
発達障害を発症している場合は、次のようなサインを発するため、「もしかして」と疑問を感じた場合は、当院へご相談ください。
ADHDの人が発するサイン
- 学業や仕事で綿密に注意することができず、ミスが多い
- 細部を見過ごす、作業が不正確である
- 作業を順序立てて、一連の課題を遂行するのが難しい
- 日々の用事や必要な物を忘れっぽい
- しばしば、手足や体をそわそわ動かしている
- 講義や会議、長時間の作業に集中できない
- 直接話しかけても聞いていないように見える