アルコール依存症
ALCOHOL DEPENDENCE SYNDROMEALCOHOL DEPENDENCE SYNDROME
アルコール依存症に新しい治療法である
「減酒外来」が加わりました
アルコール依存症は、酒を飲む時間、飲む状況、飲む量のコントロールを失う病気です。酒が入っている状態が「平常」となり、酒(アルコール)の作用が切れると不眠や全身の震え、てんかん発作、幻覚、興奮などの禁断症状や身体依存が発生します。また、渇望と呼ばれる強い飲酒欲求が現れ、精神依存が起きることも特徴です。
寝酒やストレス解消、リラックスといった目的のために飲酒を始めることが多いのですが、繰り返しの飲酒により、幸せや喜びを感じる脳の報酬系(ドーパミン神経)が強制的に刺激されることで、気が大きくなったり、気持ちよくなったり、嫌なことを忘れられたりするために依存状態となり、飲酒なしではいられなくなっていきます。また、脳の前頭葉や報酬系自体の機能低下を引き起こし、幸せや喜びが感じられにくくなり、ストレスや焦燥感が増え、また酒を飲むという悪循環に陥ります。
厚労省の基準(健康日本21)では、一日にビール1000ml(女性と高齢者は500ml)を飲む場合は、ガンや高血圧、脳出血、心臓病、糖尿病など生活習慣病のリスクが高まると言われており、約1036万人(日本人の10人に1人)が該当すると言われています。また、約107万人の患者様うち約13万人が女性の患者様であり、近年は女性患者が急増しています。女性は、体質的にアルコール依存症になりやすく、うつ病や過食症(摂食障害)、パニック障害などの合併症が多いことが特徴です。
加えて、定年後のアルコール依存症が急増しており、男性アルコール依存症の約25%は、60才以上と言われています。なお、アルコール依存症と認知症との関係も指摘されています。有害飲酒は、認知症のリスクを3倍以上も高めることがわかっており、65才未満の認知症患者の約半分は、アルコール依存症と関係があると言われています。
-
減酒外来
厚生労働省の調査によると、日本におけるアルコール依存症の患者様は107万人と推測されています。しかし、アルコール依存症の診断を受けている人はわずか約5%の約5万人、自助グループなどに通うなどの安定した治療継続をしている人は1万人と言われています。残りの約95%の100万人は、医療からも放置されて、自分でもアルコール依存症という事実にさえ気がついていない状態であり、症状が慢性的に進行し、家族や健康、仕事、社会的信頼、生きがいといった人生における重要なことを失っています。
そんな放置されてきた約100万人の患者様が、より早い時期に(まだ失うものが少ないうちに)医療機関とつながることができるよう、「減酒外来」という新しい治療法も普及してきました。
減酒外来
従来のアルコール外来
-
重症度
軽度~中度軽度~重度 -
治療目標
飲酒量を減らすことが目的
依存症になるのを予防する
健康害を減らす
断酒治療の前段階
酒を飲まないことが目的
酒を止め続ける
酒で失われた人生をとり戻す
社会や人との間でつながりを築く
-
治療方法
外来通院
薬物療法
(減酒薬や断酒補助薬など)グループ療法
認知行動療法
外来通院
薬物療法
(減酒薬や断酒補助薬など)グループ療法
認知行動療法
-
家族の協力
必要
必要
-
家族の協力
可能なら参加した方が良い
必要
-
効果
効果は人によって様々
効果は大きい
1年間続ければ大多数が
酒を止められる
従来のアルコール外来
-
重症度
軽度~中度軽度~重度 -
治療目標
飲酒量を減らすことが目的
依存症になるのを予防する
健康害を減らす
断酒治療の前段階
酒を飲まないことが目的
酒を止め続ける
酒で失われた人生をとり戻す
社会や人との間でつながりを築く
-
治療方法
外来通院
薬物療法
(減酒薬や断酒補助薬など)グループ療法
認知行動療法
外来通院
薬物療法
(減酒薬や断酒補助薬など)グループ療法
認知行動療法
-
家族の協力
必要
必要
-
家族の協力
可能なら参加した方が良い
必要
-
効果
効果は人によって様々
効果は大きい
1年間続ければ大多数が
酒を止められる
アルコール依存症のアンケート検査
(CAGE検査)
INSPECTION
次のうち、1項目でも当てはまれば、アルコール依存症の可能性があります。また、生涯で2項目以上が当てはまれば、概ねアルコール依存症と考えられます。
-
C
Cut down
飲酒量を減らさなければいけないと感じたことがありますか?
YES
-
A
Annoyed by
criticism他人にあなたの飲酒を非難されて気に障ったことがありますか?
YES
-
G
Guilty feeling
自分の飲酒について悪い・申し訳ないと感じたことがありますか?
YES
-
E
Eye opener
気持ちを落ち着かせたり二日酔いを治すために、迎え酒をしたことがありますか?
YES
こんなお悩み
ありませんか?
次のような症状は、
アルコール依存症の可能性があります
-
悪酔いして記憶を失うことがある
飲むつもりがなくても、気がつくと大量に飲酒してしまう
肝機能の数値(γGTP)が 100を超えている
人と会う前や仕事の前でも飲酒してしまう
-
飲酒について指摘されると気に障る
二日酔いで仕事や予定が守れない
よく酒のことを考えてしまう
家族や知人に隠れて飲酒してしまう
当院での治療法 -TREATMENT-
アルコール依存症の治療は、基本的に断酒が中心です。酒の量を減らす「節酒」では不十分で、半年以内に約90%の患者様が元の依存状態に戻ってしまいます。(残りの10%は病気にかかるか事故・入院が増えます。)定期的かつ継続的な通院や、断酒会・AAなどの自助グループとのつながり、再飲酒のリスクや再飲酒をした時の対処を適切に行っていくことが重要です。特に治療初期は、家族や周囲の人にも協力いただき、正しい対応と酒に近づかない生活を工夫して作り上げていくことが大切です。
なお、大量飲酒の直後は、てんかん発作や幻覚などの離脱症状が出ることがあり、外来クリニックでは安全な治療は困難なため、専門病院に入院されることをお勧めします。当院では、解毒が終わった後のアルコールの抜けたリハビリ期から、外来治療を始めていきます。
-
01
解毒期(約1ヶ月間)
専門病院に入院しながらの解毒治療が基本で、酒の離脱症状と身体の治療を行う時期です。
-
02
リハビリ期(約2ヶ月間)
正しいアルコール依存症の知識を持ち、仲間とつながることで、日常生活を取り戻すための訓練を行う時期です。
-
03
アフターケア(長期的)
リハビリを終えて社会復帰した後にも、通院や自助グループを利用しながら、断酒を続けていきます。
当院には入院施設がないため、解毒期の治療はできません。
当院には入院施設がないため
解毒期の治療はできません。
-
薬物療法
薬物療法
アルコール依存症では、シアナマイドやノックビンなどの抗酒剤で酒が飲めない体質を一時的に作り出し、飲酒をしない習慣を作り、断酒の継続を目指します。(抗酒剤が効いている時に体内にアルコールが入ることで、下戸の人のような頭痛や動悸などの不快な症状が表れ、飲酒をしたくなくなります。)また、レグテクトは飲酒欲求抑制作用で断酒の酒を飲みたい気持ちを抑えてくれ、セリンクロは減酒薬と呼ばれ、飲酒欲求を抑えることに有効です。
アルコール依存症は、不眠症やうつ病、社交不安障害(あがり症)などの不安障害などが合併している場合があるため、それぞれの疾患や症状に合った薬物療法を組み合わせる必要があります。 -
精神療法
精神療法
アルコール依存症を患っている方は、酒を好きで飲んでいるように思われがちですが、どこかに対人関係で傷つきやすく、生きづらさを抱えていて、そこから逃れるために飲酒を続けるうちに止められなくなるケースが多く見られます。飲酒を続けていくうちに、心も体も以前と同じ量では同じ効果が得られなくなり、だんだんと量が増加し、会社や家庭で問題が起きてきます。
アルコール依存症は慢性的に進行するため、一度酒を飲み続けてしまう悪循環に陥ってしまった場合は、当院のスタッフや同じ境遇の仲間たちと一緒に問題を整理し、再飲酒のリスクや再飲酒をした時の対処を適切に行っていくことが重要です。
-
アルコール依存症に特化した
認知行動療法当院では、アルコール依存症の認知行動療法プログラム(SMARPP)を行っています。当院のスタッフやアルコール依存症の治療を行う仲間と一緒に、アルコールが心身に及ぼす影響や、なぜ断酒が必要なのかについて学び、飲酒のきっかけになりやすい状況や気持ちを整理したり、自分の問題を振り返ります。将来に渡って酒を止め続けていくための方法を学び、断酒の継続を目指します。
詳しくは「認知行動療法とは」をご覧ください。 -
グループ療法
アルコール依存症の知識と同じ境遇の患者様の話を聞くことで、悩んでいるのは自分だけではないことを実感するとともに、ありのままの自分を受け止めてもらえる場で、自分の体験を素直に話すことで、自分が抱える問題を振り返って整理をしていきます。こうしたグループ療法への参加を継続しながら、一日一日、少しずつ断酒を継続していきます。
特に女性のアルコール依存症は自己評価が低い傾向にあり、生い立ちや親、夫、姑、子供、家族の葛藤など女性特有の悩みやうつ病や摂食障害などの合併症も多いため、女性だけで話し合えるグループを開催しています。 -
デイケア
長年の飲酒によって崩れた生活や睡眠リズムを規則的な状態に整え、健康的な日常生活を取り戻していくためのデイケアです。みんなで一緒に食事を摂ったり、体を動かすスポーツプログラムなどに参加します。また、仲間とのコミュニケーションの時間の中で、アルコール依存症の苦しみを一人で抱え込まず、問題に向き合っていく練習を行います。
ご家族・周囲の方へ -FAMILY-
アルコール依存症は、「否認の病気」と呼ばれるほど本人に自覚がない病気であり、治療のためには、ご家族や周囲の方の協力が全てと言っても過言ではありません。本人の治療の前に家族が相談され、病院や自助グループとのつながりを持つことで、周囲から変わっていくインターベンションという方法もあります。
ご家族や周囲の方は、本人を無理に説得してアルコールを止めようと責めたり、反対に何をしても無駄だとあきらめがちになったりします。また、本人の飲酒の問題を肩代わりしたり、尻拭いしたりする傾向(共依存)があります。まずは、ご家族や周囲の方がこの状態に気づき、周囲が変わることで、本人が自分の問題を自覚していけるようになることが大切です。
飲酒の批判をしてしまうと、本人はさらに傷ついてしまうため、ご家族や周囲の方がアルコール依存症について正しく理解し、本人が支援を受けられるようサポートすることが必要です。
クラフト(CRAFT)やアサーションというコミュニケーションの方法が役に立ちます。
アルコール依存症の人が発するサイン
- 大量に酒を飲んで、記憶をなくすようになった
- 飲酒について指摘をすると怒り出したり話を聞かない
- 休日は朝や昼から飲酒している
- 仕事中などでも酒の匂いがする
- 飲酒していることを隠したり、飲んだ量を少なく言う
- 家族や周りの人との関係が希薄になった
- イライラしやすくなった
- 少しの期間禁酒してもすぐに元に戻ってしまう
- 飲酒を「いつでもやめられる」と言う
- 肝機能の数値(γGTP)が100を超えている